心をほどく癒やしの恋愛譚……触れればほどける初恋の温度が心地良い

母を失い、感情を押し殺して生きてきた春燕と、冷ややかな仮面の奥に深い優しさを秘めた大商家の若き当主・凌偉。

本作は、そんな二人が婚約という形で出会い、ゆっくりと言葉を重ねながら心を通わせていく、静かで滋味深い恋愛譚である。

派手な事件や過剰な感情表現に頼らず、視線の揺れや間の取り方、ささやかな気遣いによって関係性が進んでいく描写が非常に丁寧で、読者は自然と二人の距離の変化を追体験することになる。

春燕の愛らしさは健気さだけではなく、長く耐えてきた時間の重みから滲み出るものであり、凌偉の寡黙さもまた誠実さの裏返しとして一貫して描かれる。

そのため、わずかな優しさや歩み寄りが強く胸を打つ。
傷を抱えた者同士が、相手を通して少しずつ互いの手をゆっくりと取り合い温かさを取り戻していく過程は、恋であると同時に救済の物語でもある。

中華風世界観の落ち着いた情緒と相まって、読後には穏やかな温もりが静かに残る一作だ。

静かな二人の恋を見守るのが私の癒しになっています。