目前に出逢ったのですから、陽炎であろうはずがないのに

夏には陽炎が浮かびます。子供は近づこうとしますが無理な話です。遠くにあって思うものです。

その家はあまりにも生々しかったのです。壁から屋根を覆い尽くす凌霄花は燃えるが如く。その少女はあまりにも生々しかったのです。過去の受難を身に刻んで出逢う者に見せつけて。

しかし何故かしら幻であることを少年に気取らせていて。人世を離れた絢が故に、物を知らぬ少年にも気取るところがあったのでしょうか。

あれは幻だった、そう言えば終わるかと思えど、終わらぬのです。

形あるものは崩れれば消えますが、幻は消えても瞼の裏に昔のままに。

その消えぬ幻は読者にも残ります。

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