鮮烈な赤が脳裏に焼き付く作品

凌霄花が繁茂するのを見て、燃えている、と主人公は感じる。
それはその夏の暑さのせいもあったのであろう。


季節外れに読んでさえ、夏のあのどうしようもない暑さが思い出されるほどに、著者の暑さの描写が真に迫っている。

熱気で揺らぐ向こう側に、今にも燃えるような凌霄花に覆われた家が見えてきそうだ。

いや、確かに、見たような気がしてくる。

それはわたしの記憶にするりと入り込んで、上書きしていく。

わたしは確かに、この作品を読みながら、あの燃えるような凌霄花の屋敷をみたのだ。




物語はさまざまな疑問を残したまま、終わる。

しかし、読者たるわたしのそんな疑問は全て、全焼していく家と共に、灰に帰してゆくかの如く、すべてはあの夏の熱さが見せた幻であったかのようにさえ感じられる。



いや、違う。

主人公が、大人になっても夏にふと思い出す、凌霄花に覆われた燃えるようなあの家は、確かなものなのだ。

ミチカも葬式も棺桶も、確かにそこに存在していて、主人公は夏の暑さに朦朧としながら、その一端を見てしまったのだろう。

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