声の出ない心の叫びと、言葉が秘める本当の力と――

声を失った白鷺音羽(しらさぎ・おとは)と心を閉ざした清瀬澪(きよせ・れい)のささやかな闘いを丹念に記録した物語です。

心因性失声症を患う音羽。言葉を捨てた彼女の壮絶な音無しの世界が展開されます。
音にならない声が喉の奥で震える感覚。
音のない言葉のように微笑む心理。
この物語では私たちが普段なにげなく使っている言葉や身の回りのものにフォーカスし、その深意を投げかけてきます。

言葉で言えば、使い方次第でそれは魔法にも呪いにもなる二面性が深く訴えてきます。心の薬になれば、一方で毒にもなり得るということです。言葉を発することができない音羽にとって、受け身なく浴びせられる言葉に特別な感情が湧き起こるのです。
「伝えたい」「話したい」「叫びたい」
私たちが伝える言葉一つとっても、相手によっては全く異なった意味合いで伝わることも然りです。それを声なき彼女は代弁してくれていると分かった時、この物語は心を突き刺し、激しく揺さぶる物語だと感じました。

また、身の回りのもので言えば「サボテン」というメタファーで音羽を表現している点も興味深いです。声を発さなくとも太陽に向かって生きるという前向きなメッセージが込められています。乾きにも、暑さにも、雨にも耐えて素敵な花を咲かせるサボテン。そんな言葉なく耐え忍ぶ植物で音なしの彼女を表現している澪の言葉もまた妙味というもの。
まさに言い得て妙ですね。

音羽の隣に座る澪。その理由が欲しいと伝え、二人の距離に変化を起こす展開も見逃せません。自然体でありながら絶妙な距離感。ほんの少し寄り添える存在として、そこはかとなく、それでいてどこか微笑ましく美しい。
彼の優しいまなざしから、飾らずに、自分らしく、ありのままでいいんだと伝わってきます。

つまづきながら声なき日々を越えて、陽の方へと希望を見出していく。言葉の力が誰かを救う優しさとなって、未来を少しずつ塗りかえていく。音羽と澪の二人を応援したくなる成長のストーリー。
必ずあなたの心に残り響くものが見つかるはずです。
どうか、手にとってみてください。

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