受難の物語

人生は、好きなときに好きなように描くことのできる絵画ではない。
過去に戻ることはできず、現在に留まることもできず、
誰しもが、多かれ少なかれ、妥協と後悔を携えて未来へと進んでいく。

それでも、修正の機会が巡ってくることはある。
できなかったことの再挑戦。してしまったことの贖罪。
原因が明らかであれば、後悔が深ければ、失敗が鮮烈であれば、
やり直しの手順も組みやすくなるかもしれない。

けれど、あやふやな過ち、その輪郭すら掴めなかったら?
何を成せばいいのか、自分自身もわからなかったら?

自分の前から去っていった元恋人。浅からぬ因縁のあるそのパートナー。
祝福、嫉妬、受容、羨望、拒絶。
主人公・茉侑子はどの感情も内に秘め、しかしどの感情にも縋らない。

一つの想いに身を任せるのは、容易く、甘い。
対して、自らの過去を見つめ直し、問題をはっきりと見定めるのは、苦い。

甘さと苦さの間で揺れ動く、一人の女性の物語。
繊細さと大胆さに彩られた言葉たちが、その姿を生き生きと描いています。

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