久々に会った元カノが妊婦だった。
焼おにぎり
プロローグ
私から
空が暗くなり始めても、私たちのいるこの場には、帰ろうという気配すら訪れない。
私たちは、高校の近くの公園にいた。
暗い街灯の下のベンチで、
実際には、未冬のほうが絵里さんよりも十センチ以上背が高いのに、今は未冬のほうが幼い子供のように見えた。
私は、そんな二人を黙って見ていた。二人が腰掛けるベンチから三歩くらい離れたところに突っ立って、制服のスカートをぐしゃっと握りしめたまま。
未冬に、気の利いた言葉をかけられさえしない。
あの時の公園と同じだ。
どうしても、特別に──
浮き足立ったような声でそう言われて、校舎から未冬に手を引かれていったあの日。
「すーくんに告白してたの、今日やっと返事もらえたの」
──自分なんかでよければ、よろしくお願いします、だって。
それはあまりにもキラキラした、青春真っ盛りな報告だった。
衝撃のすごさに言葉を失うくらい。
未冬の報告を受けた私は、ギリギリなんとか「おめでとう」というセリフを絞り出して、幸せオーラ全開の未冬の隣を呆然としながら歩いて帰宅し、そして一人で泣いた。
茉侑子に一番に伝えたかっただなんて、そんな特別扱い。喜んでいいのか泣いていいのかわからないよ。されたって、心がグチャグチャになるだけだ。
女なんてバカだ。
未冬のバカ。みんなみんなバカ。
なんで男子なんか好きになるんだよ。ていうか「すーくん」ってなんだよ。
そいつと付き合えたからって、なんで未冬みたい魅力のかたまりのような子が、「奇跡みたい」って瞳を輝かせなくちゃいけないんだろう。なんでそんなに、宝物ができたような顔をするんだろう。
私が──すごくちっちゃい時から未冬のことを知ってる、私がいるのに。よりによって、ポッと出のモブ男子と両思いになられちゃった。
これってどういうバッドエンド? って、心の中で何度唱えたかわからない。
でも、結果的にはこうなっているのだ。
現在、未冬はその男子に傷つけられ、泣くはめになっている。
「すーくんに……ふられちゃった」
そんなふうに、未冬は私たちの前でなんでもないって顔で笑って、でも、結局はつくろいきれずに、メソメソ泣き出した。
あんなやつと付き合うからだ。
私の腹の中の真っ黒い部分で、そんな言葉が渦を巻いていた。
優しい絵里さんは、心からショックを受けた様子で、未冬のことを元気づけていた。絵里さん自身は、一度すら恋が実ってないのにね。優しいよ、ほんとに優しい。
で、優しくもない、誰にも愛されない私って、本当になに? 絵里さんのように、叶わなかった想いに共感して未冬を慰めることだってできるはずなのに、それをしない私って。
この世で一番、わけが分からない存在だ。
私はいったい何者で、何のために産まれてきたんだろう。他人に嫉妬するため? 悪意を振り撒くため?
こんな気持ちを抱えてる自分は、この二人の友達だって言えるのだろうか。
男なんか好きになったところで、良いことなんか一つもなかったじゃん、って、腹の底で呪詛を溜め込むことしかできない私が。
スカートを握りしめる手にさらに力が入った。
あーあ、絶対シワになる。本当にいやだ。
でも、私はここを去ることができない。
本当にずるくて──けれど、未冬にだけは嫌われたくない女だからだ。
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