可愛い比喩

人は、習慣に引っ張られる。
バナナという文字を見て想像するのは、たいてい、
黄色くて、長くて、甘い、皮を剥いて食べるモノだろう。
実際には、短かったり、赤かったり、甘くなかったりするのに。

物語において、言葉の持つその引力が、読者の妨げになることがある。
それを回避する方法の一つが、修辞技法であり、更にその内の一つに、比喩がある。
比喩は、読者の理解の矢面に立ち、引力の犠牲となり、物語の裏に隠された意図を守る。

ピアノは、生き物ではない。
けれども、この作品では、ピアノをまるで生き物のように扱っていく。
他の生き物も同様に。

この比喩の裏には何が隠されているのか。
物語の何を隠しているのか。
段々と、比喩そのものには目を向けなくなっていく意識。
しかしそこで、ラストの一段落が衝撃を与える。

ああそうなのか、と。
比喩そのものを愛でてもいいのだと。