「じゃあ、先に調べてわかったこと、それからたぶんこうだろうって思ったことをまとめて話すよ」
不用意に触ってしまったことを謝ってから。
僕は三人のクラスメートを前にして座った。
三人も僕の前へ放射状に腰を下ろす。
「僕は、自慢じゃないけど友達がいない。代わりに家で遊んでばかりだった。趣味はRPGとラノベ」
「本当に自慢じゃないね……?」
「ぐっ」
いきなり殺されかけたけどもそれはさておき。
言った通り、三人の女の子たちはみんなクラスメートだ。
艶やかなロングヘアが印象的な役者の娘、西城(さいじょう)未来(みく)。
ポニーテールで活発な雰囲気の新体操部、今野(こんの)葵(あおい)。
文学少女風の眼鏡っ子、加古(かこ)つぐみ。
──以上、敬称略。
「こほん。だから、人より少しは詳しいと思う」
三人はこくん、と頷いた。
「で、この『クラス』と『スキル』に関するシステムだけど──」
・クラスを取得するにはCP(クラスポイント)を消費する
・クラスの取得数にはおそらく制限がない
・取得したクラスに応じてステータス補正や装備が得られる
・CPは経験値を積み重ねてレベルアップすることで追加される
・取得したクラスのスキルをSP(スキルポイント)を消費して得られる
(一部汎用スキルも存在する)
・SPは新しいクラスを取得するか、クラスのレベルを上げた時に得られる
(該当クラスのスキルか汎用スキルにしか使えない)
・スキルは『スキルスロット』に設定することで効果を発揮する
・スキルスロットは5つ
・同じスキルを複数取った場合は1つのスロットに重ねて『筋力上昇2』などのようにして効果を上げられる
「……なんだ。一度選んだクラスがずっとついてくるわけじゃないんですね」
全員、ゲームについてある程度知っているおかげで理解が速い。
説明を聞いてすぐにつぐみがほっとしたように微笑んだ。
「失敗したと思ったら別のクラスを取ればいいんですから」
「そうだね。でも、最初から慎重に選んだほうがいいと思う」
「どういうことですか?」
「スキルスロットが5個しかない。つまり、6種類以上のスキルを取っても無駄になりやすい」
「あっ……」
無駄なスキルが出れば1レベル損したようなものだ。
「加えて言うなら──」
・例えばクラス『剣士』には『筋力上昇』のスキルが1つしかない
『筋力上昇2』にしたいなら『戦士』など別のクラスを取得しないといけない
(1つのクラスに同じスキルが複数割り振られている場合もある)
これには葵が首を傾げて、
「それって問題ある? どっちも前衛系のクラスだし取ればいいじゃない」
「ステータス補正が変わる。マルチクラスにすると能力が平均的になりやすい。
それに、場合によっては前衛っぽくないクラスに『筋力上昇』があったりするよ」
例えばクラス『運び屋』は戦闘能力があまり高くないけど『筋力上昇』を持っている。
「あと、さらにあって」
「まだあるの!?」
・各クラスの装備には『太字のもの』と『細字のもの』がある
おそらく太字のものは最初の1クラスに選ばないと獲得できない
未来が「ふむ」と顎に指をあてて、
「逆の可能性はないのかしら?」
「たぶんないと思う。太字のアイテムの中には武器やお金が多いんだ」
「あれこれ手を広げるだけでひと財産築けてしまう、なんて良い話はない……と。
まあ、効率的かどうかは疑問だけれど」
そもそも装備が無から生まれるって何って話だけど、そこは異世界だから気にしすぎても仕方ない。
「私もざっとクラスは見たけれど……。
例えば最初に槍使いを選んで槍をもらったら、後から『剣のほうが向いている』と思っても、剣を店で買わないといけないわけね」
「そうなるね。もちろん、最初にもらった槍も壊れたら買い換えないといけないけど」
「えっ!? ……あ、そっか。装備って壊れるんだ」
「ゲームなら使ってもなくならなかったりしますけど、現実には『壊れないもの』なんてありませんよね」
ここで三人が黙り込んだ。
じっと自分のウィンドウを覗き込んであれこれ指を動かしているので悩んでいるんだろう。
「ここまでを総合した僕の意見だけど──」
何よりも『安定して戦えること』が大事!
「扉の向こうがどんな世界かはわからないけど、たぶん剣と魔法のファンタジー世界だ。
お金があるのも確定してるから、買い物ができないと生きていくのも厳しいと思う。
壊れやすい武器は避けたほうがいいし、できれば武器なしで戦えるのが理想かな」
三人が顔を上げて僕を見た。
「結城君の考えでは、飛び道具は避けるべき──ということかしら?」
「うん。矢とかでどんどんお金が減っていくから生活費で困ると思う」
投げナイフとかもなくなりやすいし、ブーメランが敵に当たって戻ってくるとか普通ありえない。
生活費のためにクラスとスキルを構成する。
すごく世知辛い話だけど、死にたくないならこれが一番大事だ。
いくら剣が強くたって、剣が折れたらなにもできないんじゃいざという時に困る。
これはみんな納得してくれるに違いないと、
「いいえ。わたしの意見はあなたとは別だわ」
「うん、あたしも、一番大事なのは別のことだと思う」
「わ、私も、他にも大事なことがあると思います」
「え」
まさかの、誰も賛成してくれなかった。
「じゃあ、みんなの意見は……?」
僕なりの最適解のつもりだったけど、見落としがあったかもしれない。
僕だってこんな状況初めてだし、動転してる部分もある。
ここはみんなの意見を聞いて修正しなければ。
尋ねると、みんなは「もしかして同じ意見かも?」とばかりに顔を見合わせて、
「最も大事なのは他者に与える印象よ」
「一番はどう考えても稼げるかどうかだよ! お金は大事だけど節約より金銭効率!」
「節約より安全です……! 安全に生きられるなら貧乏でもいいと思います……!」
ぜんぜん別の意見がそれぞれの口から飛び出した。
揃って「は? 正気?」みたいな顔をするみんな。
「見た目は大事よ。ゲームの登場人物だってみんな身ぎれいにしているでしょう。
古い洋画や時代劇だと汚れた見た目も見るけれど、あれじゃ浮浪者と同じ、誰にも信用されないわ」
「装備へのお金は投資だよ! 使った分だけさらに稼げるようになればそれが一番いいよ!
ずっと雑魚狩ってたって世界は救えないんだから!」
「回復とか、防御力とか、飛び道具とか、とにかく危険に近づく機会を減らすべきです。
前衛なんていなくても遠くから敵を倒せればそれでいいんじゃないでしょうか」
む、そう来るなら僕だって言いたいことがある。
「安定は大事だよ。前衛後衛中衛をバランスよく配置しないと対処できないピンチが出てくる。
勇者戦士魔法使い僧侶とか戦士僧侶魔法使い盗賊とかはそれなりに理由のある構成なんだ」
みんなそれなりにゲームが詳しいおかげでちゃんと話し合いができている。
できているけど、おかげでみんな譲れないポイントがあって。
「見た目が!」
「金銭効率!」
「安全!」
「安定!」
僕たちは気分的に疲れてくるまでえんえんと言い合いを続けて、ようやく「これ無駄じゃない?」と気づいた。