なんだこのタイトル
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冒険者。
それは、この国ではとてもありふれた職業です。
ほとんどの街に冒険者ギルドがあって、冒険者登録をしたり依頼を受けることができます。
仕事の内容は猫探しや配達のような簡単なものから、危険なモンスターを退治するものまで。
依頼ならたいていのことは受け付けるのが冒険者ギルドで、自分の能力やお財布に見合った内容ならなんでも引き受けるのが冒険者。
国を守り、街を守り、人々の生活を豊かにする。
冒険者はこの国にとってなくてはならない存在です。
騎士とか、兵士とか、自警団とか、専門の人をたくさん雇うのは大変だからって、何代か前の王様が冒険者制度を大きく整えたのだとか。
おかげで、わたしの住んでいた村のようなところでも「困ったら冒険者を呼べば解決」できるようになっていました。
森にゴブリンが出たからって、いちいち国にかけあっていたらいつになるかわからないでしょう?
そんなわけで、この国では冒険者に憧れる人もたくさんいます。
かくいうわたしもその一人でした。
というか、わたしの場合は兄弟が多く、街に出て冒険者にでもならないと自分のご飯代を稼げなかったのですが。
「ほら、お嬢ちゃん。あれが『冒険者の街』だよ」
「わあ、あれが……!」
故郷の村から安い宿と乗合馬車を使って何日か。
都の次に冒険者の多い街の外壁が、馬車の行く先に広がっていました。
「やっと、やっとここまで来たんですね……!」
「ははは。お嬢ちゃんは冒険者志望であの街を目指していたんだっけ?」
「はい! 冒険者になればお金が稼げますから」
すると、話し相手になってくれたおじさんはわたしの頭からつま先までを見て、
「だけど、全然強そうには見えないな」
「う」
それはまあ、わたしなんてただの十四歳の田舎娘で。
田舎の暮らしなら、簡単な料理から洗濯、農作業のお手伝いに、便利な薬草の見分け方、家畜の解体までできますけど。
武器を持ったりモンスターと戦ったりなんてまるでしたことがありません。
「で、でも、職業判定を受ければわたしだって」
この世界では、人を見守る神々がわたしたちにいくつかの加護をくださっています。
成長をわかりやすく教えてくれる成長の加護。
命を落とすようなことがあってもなんとか生き延びられる生存の加護。
それから、職業に応じた能力を伸ばせる職業の加護。
「今は『村娘』ですけど、ギルドで転職して立派になってみせます!」
「ははは、そうか。まあ、頑張ってな」
「はい!」
そうして、街に着いたわたしは街の人に教えてもらった冒険者ギルドに行って。
冒険者登録と、そのための職業判定を受けさせてもらいました。
「では、この水晶玉に手をかざしてください」
言われた通りにすると光が生まれて、昔の文字を形作りました。
「これは……すごい! 伝説級の職業です!」
「伝説級だと!?」
職員さんの声に、居合わせた冒険者さんたちが集まってきます。
ぽかんとしたわたしは、どうやら自分が世にも珍しい職業を引き当てたらしいことを理解しました。
「そ、それであの、具体的には」
「どんな職業なんだ!?」
なんだか周りの人のほうが興奮しているような気がしつつも職員さんをじっと見て、
「はい。それは……『悪役令嬢』です!」
「────」
しん、と、その場が静まり返りました。
すこしの間があって、静けさは爆笑に変わって。
「悪役令嬢!? それってあれだろ、物語とかに出て来る!」
「貴族様がわがままな娘に『このままだと悪役令嬢になるぞ』とか脅すやつ!」
「職業なのかよそれ! で? なにができるんだ?」
「えっと……」
わたしは成長の加護の恩恵──光る文字盤を呼び出し、自分の能力を確認しました。
判定と共に転職したので、いまのわたしは『悪役令嬢』です。
職業の加護が最低限の職業技能を与えてくれるので、いままでにはなかった能力がわたしに追加されていたのですが、
「読み書きに礼儀作法、踊りと、歌と、裁縫……」
「はっははは! なんだよそれ、お嬢ちゃん、メイドにでもなった方がまだ稼げるぜ?」
「っていうかちんちくりんの田舎娘のどこが令嬢なんだよ!?」
「ち、ちんちくりん……」
それはまあ、農作業や水仕事で手は荒れ気味ですし、顔も平凡ですし、胸もほんのちょっとしか……ありませんけど。
わたしだって、憧れていたんです。
自分にすごい才能が眠っていて大活躍、みたいな未来に。
でも、現実はそんなに甘くないみたいで。
伝説級の職業なのに、悪役令嬢を仲間に入れてくれる冒険者はいませんでした。
◇ ◇ ◇
それから一週間。
わたしは街の料理屋さんで住み込みのお仕事をしていました。
料理や洗い物の基本は知っていたので厨房のお手伝いもできますし、覚えた礼儀作法のおかげでちょっとだけ礼儀正しく見えるみたいで接客の受けもいい感じです。
お店のご主人とおかみさんも喜んでくれて、まかないをお腹いっぱい食べさせてくれます。
……うん、冒険者のお仕事じゃありませんけど。
「今日も一日お疲れさん。ほら、これ」
だんだん慣れてきた一日の仕事を終えてお店を閉めると。
ご主人が小さな袋をわたしに手渡してくれました。
「? これは?」
「一週間分の給料。これからもこの調子で頼むぜ」
「っ、はいっ!」
わたしの心がぱっと華やぎました。
これはこれでいい生活なのかもしれません。こうやって経験を積んで、そのうち小さな自分のお店を開くとか……。
……ちっとも悪役令嬢じゃありませんけど。
このよくわからない職業は、よくわからないだけあってまったく成長する気配もありません。
努力は経験値という形で表れて、それが溜まると目に見えた成長があるのですが……この一週間、経験値は1点も溜まっていません。
もしかするとなにか特別な条件があるのかも。
うん、向いていないものは仕方ありません。
悪役令嬢のことは忘れてこれからのことを考えましょう。
「あの、おじさん。このお金でお店の料理を注文ってできますか?」
「あ? そんなもん、タダでまかないを作ってやるぞ?」
「いえ。わたし、自分のお金で好きなことをするのって初めてで」
それが「美味しいものを食べる」ならもっと楽しい。
店主さんもそういうことならと頷いてくれて、お店で一番高い「鶏もも肉の香草焼き」を割引料金で出してくれました。
おまけにパンとワイン、スープまで。
「ありがとうございます、いただきます!」
わたしは笑顔で美味しいご飯を頬張り、生きてて良かったと実感しました。
こうしていると悪役令嬢とかどうでもよくなってきます。
「……あれ?」
と、思ったら、さっき確認して開きっぱなしになっていた経験値の項目に変化がありました。
経験値がちょっぴり、ほんのちょっぴりですが増えています。
なんで?
疑問に思ったら、細いバーの下に文字が現れました「贅沢、散財:+2」。
ええと、これはつまり、これをしたから経験値が入ったよ、ということのはずで。
「悪役令嬢って、お金を使うと成長するんですか……!?」
「エリィちゃん、なんの話してんだ?」
「いえあの、ちょっとびっくりしたといいますか」
わたしこと村娘エリィは、謎の職業『悪役令嬢』としてやっていく手がかりを、やっていくのを諦めた途端に手に入れてしまったのでした。