絆レベルMAXの嫁キャラがなんか実体化して……とかたまにあるけど、
絆って双方向だから主人公君も絆効果でゲーム内主人公君と同化していったりするかもだよね、
みたいなことがしたくなって冒頭を書いてみたやつです
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『嫁実体化アプリ』。
ある日朝起きたら、スマホにそんな表示が追加されていた。
「なんだ、これ」
こんなものインストールした覚えはない。
しかも名前があからさまに怪しい。
起動したら個人情報抜かれたりとかするやつか?
とりあえず削除──。
「え。消えないぞこれ」
やばいやつな気がしてきた。
……後で消し方をググって、あと通報とかしておくか。
時間がかかりそうなので後回しにして。
「忘れないうちにログインボーナス受け取っとかないとな」
俺はいまハマっているゲームアプリを起動した。
『Re:神話大戦 -Legend Girl Rebirthed-』。
簡単に言うと、神話の英雄とか神様の力を手に入れた女の子たちが戦いを繰り広げる、バトル要素ありのスマホゲームだ。
毎日ログインするとちょっとしたアイテムがもらえるし、連続〇日ログインでさらにおまけがついてくる。
積み重ねるとけっこう馬鹿にならないので、俺みたいな微課金勢には死活問題。
「咲耶の次の限界突破はさすがに遠いんだよな。素材集めにしばらくかかりそう……っ!?」
慣れ親しんだアプリのスタート画面を眺めた次の瞬間、俺は見慣れない表示を見た。
『materialization』。
スマホから強い光が放たれて、たまらず目をつぶってしまう。
数秒の後に光は収まったものの、俺はまだ目が慣れないままで。
「旦那様」
「……え?」
近くから聞こえてきた声に、びくっと身を震わせた。
最初はスマホから聞こえてきたのかと思った。
けれど、画面はゲームのスタート画面のままで。
スタートさせてゲームの基本画面にinしても、メインキャラに設定していたその子はなぜか画面に表示されなかった。
いるはずのキャラがいないことを示すようにがらんとした空間が不自然にあって。
「あの、旦那様」
「っ」
ようやく顔を上げれば、そこに彼女がいた。
ぱっと見は黒だが、よく見ると夜空のように深みのある青を含む髪。
透明感のある瑠璃色と例えられる、宝石のような瞳。
白くて滑らかな肌に、包容力を示すように豊かなボディライン。
それでいて腰や腕は細く、清楚な印象を同時に感じさせる。
「……咲耶?」
呟くと、彼女はまるで生きているかのようにぱっと表情を輝かせる。
「はい、旦那様。あなたの咲耶でございます」
|誘波《いざなみ》|咲耶《さくや》。
俺の推しキャラにして『嫁』が、実体を持ってそこにいた。
◇ ◇ ◇
一人暮らしのアパートが、咲耶の存在だけで別世界のように華やいでいる。
対面から30分後、俺はリビング(兼キッチン)のテーブルに並べられた料理におお、と声を漏らした。
唐揚げにキャベツの千切り、豆腐とわかめの味噌汁、きゅうりの漬物に山盛りの白米。
「簡単なもので申し訳ありませんが、どうぞお召し上がりください」
「あ、ありがとう」
夢かと思って頬をつねってもみたものの、ただ痛いだけで目覚める気配はなく。
俺は揚げたての唐揚げの誘惑に勝てず、いただきますと箸を手に取った。
咲耶が不安そうに見つめてくる中、まずは唐揚げにかぶりついて。
「美味い! なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ」
「ありがとうございます。そちらの鶏には手持ちの食材を使わせていただきました」
ああ、そういえば家に鶏肉なんてなかったもんな……って、手持ちの食材?
気になる単語に箸を止めて、恐る恐る尋ねた。
「あのさ。とりあえず、咲耶って呼んでいいのかな?」
「もちろんでございます。旦那様のお好きなようにお呼びください」
まるで愛しい相手に対するように微笑んで答える咲耶。
声帯にはそのまま声優さんの声が採用されており、おまけにキャラデザ通りの人間離れした美少女。
思わず見惚れてしまいそうになるものの、それどころじゃない。
「正直に聞きたいんだけど、咲耶はいったいどういう存在なんだ? まさか、ゲームの中から出てきた……のか?」
「ええ、そうですね。わたくしとしてはそのように認識しております」
できればノーが返ってきてくれたほうが嬉しかったのだが、咲耶はうっとりしながらそう答えた。
「なんらかの奇跡によって、わたくしはこうして旦那様と邂逅することができたのです。神に感謝しなければなりませんね」
「いや、咲耶も神じゃん」
「まあ、旦那様ったら。さすが、わたくしのことをよくご存じなのですね」
そりゃ推しキャラの情報だし。っていうかゲーム内でも定番のギャグだし。
「じゃあ、咲耶も詳しいことはわからないのか?」
「はい。一つ申し上げられるとすれば、わたくしに邪な目的はありませんし、誰かに命令されているわけでもないということです」
「すると咲耶の目的は?」
「もちろん、旦那様と添い遂げることです」
心底嬉しそうに、俺の目をまっすぐに見ながらそう言われた。
可愛い。よし結婚しよう──ではなく。
「待った。その旦那様っていうのは、本当にそうなのか?」
「? と、申しますと?」
「俺は確かにゲームの中で咲耶を嫁にした。だけど、俺はゲームの中の主人公じゃない。君が『旦那様』と呼んでいるのは──」
「もちろん、間違いなくあなた様でございます」
こんな美少女に、こんなに好意を向けられたら、どきどきせずにはいられない。
「出会った瞬間にわかりました。絶対に間違いなどではございません。あなた様が、わたくしの旦那様です」
「……そう、か」
息を吐く。
正直、まだなにがなんだかわからない。
ぶっちゃけ、ゲームの中から嫁キャラが出てくるとか、それこそゲームのやり過ぎを疑いたくなる。
「うん。もし咲耶の言ってることが本当ならめちゃくちゃ嬉しい」
「本当ですか!? では今すぐにでも式を──」
早い早い早い。
「でも、まだ状況が飲み込みきれないんだ。少し時間をくれないかな?」
慌てて言うと、咲耶は少し残念そうに頷いた。
「そうですね。旦那様の混乱もごもっともだと思います」
「よかった。わかってくれ──」
「でしたら、手っ取り早い方法として、わたくしの身体をご堪能いただければ──」
「待ってくれ。いろいろ我慢できなくなっちゃうから」
そりゃ、女の子が触っていいって言ってるんだから、本当はすぐにでも触りたい。好きなだけ堪能したい。
現実にこんな女の子がいたら触れてみたいって思った回数は数えきれないし、ここにいる咲耶は妄想そのまま、いやそれどころか妄想以上の可愛さだ。
だけど、いやだからこそ、そんなことしたらいくつも状況を吹っ飛ばしてしまう。
もういいから結婚するかー、とならないために俺はぐっと我慢して、
「……これは」
急に、咲耶の表情が険しくなるのを見た。
「どうした? まさか、敵が来たとか言わないよな?」
その表情が登場するパターンを思い出しつつ尋ねれば、
「残念ながらそのまさかのようです」
身構えた咲耶は部屋の窓に向かって歩き出し、俺を背後に守るような態勢を取る。
……いやいや、咲耶が現実に現れただけじゃなくて敵まで来るって、それなんてゲームの話だよ?
だけど、俺がそうやってまだ信じられないでいる間に、窓をぶち破って部屋に侵入してくる者たちがいた。
それは、最も近いものを上げるなら海の生き物。
ヒトデ、イソギンチャク、カニ、ヤドカリetc……。
ただし、俺の知っている種類とは全く違う凶悪な外見をしている。
牙のように尖った触腕に捕まったら痛いじゃすまなさそうだし、もしかしたら毒も持っているかもしれない。
ちょっと待て、これ、洒落になってないぞ。
「なんで窓から海産物がやってくるんだよ……!」
「来ます……!」
少し落ち着きたい俺を置き去りにするように、咲耶と謎の敵との戦いが始まった。