※現代舞台、ヤンデレで考えていたら話がやたら重くなった件
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『わたし、大きくなったら正義の味方になる!!』
小さい頃の夢を見ていた気がする。
日曜日の朝にやっていた変身ヒロインのアニメが好きで、無邪気に「なりたい!」と言っていた。
そうしたらお父さんが「そうか、じゃあ将来は正義の味方だな」って言ってくれて。
今思い出すと恥ずかしくてむずむずする。
はあ。
首都圏へ向かう電車内。
電子案内パネルを見上げると、目的の駅まではまだ三駅あった。
窓の外に見える都会は憧れていたほどキラキラしていなくて、むしろごちゃごちゃして見えた。
『間もなくダンジョン圏内を通過します。圏内通過中は不意の揺れなどにご注意ください』
他の乗客はみんなそのアナウンスに興味がなさそうで。
慣れてしまうくらい、こっちでは「それ」が当たり前なんだとぼんやり思う。
右手に付けた薄いグローブをそっとめくって、痣のように浮かんだ文字を見つめる。
「ダンジョン……かあ」
ダンジョン。それは、わたしにとって憎い相手で。
これからわたしの『仕事場』になる場所だ。
◇ ◇ ◇
ある日突然、世界初のダンジョンが現れたのは今から五十年くらい前のことらしい。
そこから現れる見たことない化け物に人々は大慌てしたけど、そのうち人々の中から「ダンジョンに対抗できる」人が現れ始めた。
特異能力保有者──ギフトホルダー。
長いしわかりにくいので、正式名称の代わりに、ダンジョンを攻略する人ってことでこう呼ばれることが多い。
『冒険者』
最寄りの駅で降りたわたしは目的地を目指した。
新しくしたばかりの高性能スマホのおかげで道に迷う心配はなかった。
いやまあ、わたしの住んでたところだってそこまで田舎じゃないけど、来たことないところってどうしても全部同じに見える。
でも、これからこっちに住むんだから慣れていかないと。
って言っても、
「……馴染める気がしないんだけどなあ」
見えてきた白い校門には『特異能力保有者養成特別高等学校』と長い学校名が書かれていた。
簡単に言っちゃうと、ここは冒険者の卵を集めた学校で。
広い敷地に最新式の設備で、ダンジョン攻略のスペシャリストを育成するっていうのがキャッチコピー。
冒険者の素質があると判定された子は、中学校を卒業したらここに入学するのが決まり。
憧れてる子も多いらしいけど、わたしに言わせればここは「暴れると危険な子供を一か所に集めておくための牢屋みたいなところ」だ。
電子式の厳重なゲート前で入学許可証を見せると中に。
二つ目のゲートの前で荷物検査や身体検査をしっかりされた。
右手の『刻印』ももちろん確認されて。
「夢宮ありすさん──ですね。確認しました。入学おめでとうございます」
わたしはやっと学校の中に入ることができた。
できたのは二十年くらい前だけど、毎年のように改装したり大規模な清掃したりしてるらしくて、できたばかりみたいに綺麗な校舎。
並木道も、芝生の脇道も、ところどころにあるベンチも、都会の中とは思えないくらい落ち着いた雰囲気で。
思わずほっとしてしまうけど、もちろんそれだけじゃなかった。
中に入った途端、いくつもの視線がわたしに突き刺さってくる。
年度替わりで在校生も授業がない時期。
外でのんびりしてるっぽい生徒があちこちにいたんだけど──その人たちがわたしを見てきたのだ。
たぶん、最初からこっちが目的。
その証拠に、並木道の向こうからギャルっぽい感じの三人組が歩いてきて、わたしに声をかけてきた。
「ね、新入生だよね? レベルは? どんなギフト持ってるの?」
わたしは仕方なく立ち止まって──視線を逸らした。
「言わなきゃだめ、ですか?」
「別にだめじゃないけど、隠しても仕方なくない? どうせこれからいっぱい人と比べるんだから」
リーダーっぽい先輩がわたしに顔を近づけて、
「だいじょーぶ。もしレベル0でも、新入生なんだからふつーだってば。……あ、ちなみにあたしはギフト『炎術』で、レベルは11ね?」
「あははっ。ちょっと、可哀そうじゃん。そんな脅すみたいな言い方」
「でもしょうがないよねー。ここじゃ強いほうが偉いんだし」
ほら、やっぱり。
三人とも綺麗な格好してるし、爪とかも塗ってお洒落だけど……言ってることとやってることは田舎の不良とおんなじ。
気に入らない相手がいたら力づくで黙らせればいいって思ってる。
それは、わたしだって、そんなふうに使える力があったら、こういう人たちをそれこそ力づくで黙らせたいって思うけど。
……わたしは右手のグローブを外して、三人に見せた。
「わたしのギフトは『洗脳』。レベルは──0です」
しん、と、その場が静まり返った。
誰もなにも言わない。風の音や鳥の声だけが聞こえる中で数秒が経って。
「あはっ! あはははっ! うそ、本当にレベル0なんだっ!」
「しかも『洗脳』とか! 使ったら即行警察に捕まりそうなやつ!」
冒険者がひとりひとり持っている「レベル」は、個人ごとに違う特殊能力「ギフト」を「何回使ったか」で決まる。
レベル0から1にするにはギフトを1回使えば良くて、2レベル以降は前回必要だった回数の2倍が必要。
わたしの右手には数字の0が、ギャルのリーダーの右手にはローマ数字の11。
つまりわたしは、ギフトを手に入れて冒険者学校入学が決まってから一回も、ギフトを使ったことがない。
「おめでとー。あんた落ちこぼれ確定」
わかっていたことなので、わたしは悔しいとは思わなかった。
わたしの顔を覗き込んだリーダーは楽しそうにこう言った。
「あ。ね? 落ちこぼれと言えば、うちの学年から留年した子がいるからさあ……仲良くしてあげてくれる?」
もしかしたら二人でもう一回一年生やることになるかもしれないし。
そんな声がどこかから聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
わたしの噂は、入寮した日の夕方にはもうみんなに広まっていた。
「見て、あの子」
「レベル0で、ギフトは『洗脳』だって」
「うわ怖ーい。話しかけられても無視しないと」
「うっかり洗脳されちゃったら困るもんねー」
夕食を食べに寮の食堂に行ったらそんなふうにひそひそ噂話をされて。
同じ部屋になった子はそれを聞いて、真っ赤な顔でふるふる震えた。
「信じられない!」
きっ、と、強い表情で睨まれて。
「洗脳なんてする子と同じ部屋にいられるわけない!」
よろしくねって挨拶して、お互いに笑顔で自己紹介して、ベッドどっちを使う?なんて話をしていたのに。
その子が泣いて管理人さんにかけあった結果、わたしはもともと二人部屋を一人で使う予定だった子と同室になることになった。
「あのね。気を悪くしないで欲しいんだけど……あなたは右手の刻印、隠さない方がいいかもしれない」
管理人さんにお礼を言って、わたしは荷物を部屋から運び出した。
グローブをくしゃくしゃにして荷物の奥に押し込んで。
言われた部屋のドアをそっとノックした。
「あの……わたし」
小さくドアが開いて、顔を覗かせた女の子はかすれるような声で。
「お話は聞いています。どうぞ、入ってください」
「あ、ありがとう」
また嫌だって言われたらどうしようかと、正直思ってた。
恐る恐る入ると、部屋には、一年生だっていうのを考えても驚くほど……物が置かれていなかった。
そっと、新しい同室の子を見つめる。
ウェーブのかかったショートヘアはあまり手入れがされていない感じ。顔も、ちゃんとすれば可愛いはずなのに化粧っ気がなくて、なにより表情が死んでいた。
どうして、こんなに。
というか、わたしより辛そうなのはどうして。
なんて言っていいのかわからなくなっていると、彼女は力なく笑って。
「大丈夫ですよ。洗脳なんて気にしませんから」
こっちで初めて言われた優しい言葉なのに、なぜかぜんぜん温かく感じなくて。
「……むしろ、いっそのこと洗脳して欲しいくらい」
続けれた呟きに、わたしは胸をぎゅっと締め付けられた。