誰も知らない

 一文一文が、よい意味で重い。詰まった織物のようだ。
 そのせいで、こちらの背筋がぴんと伸びるような、緊張感のある読書を誘う。

 舞台は作者さまが愛する沖縄である。
 語り手はもうこの世のものではない。
 俗な表現をするならば、お盆に帰ってきた魂である。
 線香を立てて想い出してくれる人がいる間は、根の国より戻り、煙の中に溶け込んで漂う。

「彼」はまだ島の光や風の中にいる。暮らしていた家の中にいる。
 妻の許にいる。
「彼」は多くのことを忘れているが、憶えていることもある。
 いい夫ではなかったようだ。

 すべて空なり。
 独りずつ、いつしか誰もが消え失せる。

 どうやら人は死んでも、死んで終わりではなく、その続きがまだあるようだ。
 その人を想う人がいる限り。
 語り継がれていく限り。

 完全に無となり、重ねてきた相克すら風に乗って薄荷色の海に四散していくその時、「彼」は先祖となるのだろう。
 消える先は、「本土」なのか、「島」なのか。
 生者は何処からきたのか。死者は何処へ行くのか。
 わたしたちは、誰もしらない。