階段のフライパン

 その昔、ブログ上で一般人のカズマさんが「実録鬼嫁日記」というものを書いていた。
 内容といえば、うちの嫁がいかに鬼か、いかに子どもには甘く、旦那に対してはシベリア対応かという日常レポートなのだが、大変に人気があり、書籍化も果たされている。

「夫はわたしの下僕。そして無制限利用可能なATM」
 これを地でいく鬼嫁にハートを粉砕され、嫁と幼い娘のあいだで日々ティッシュの破片のようにくるくると翻弄され続ける情けない夫。
 嫁。
 鬼。
 ひどい。
 しかしカズマさんの涙の訴えはユーモアに包まれており、その根底には家族への深い愛情が溢れていた(はず)
 お子さんが成長されたこともあってかブログは現在休止中ではあるが、カズマさんの記事は全国の夫たちから「分かる、分かるぞ」と当時熱烈な支持を受けていた。

 夫が書く妻の生態は面白い。

 これが逆に妻が夫の生態を書くとなると、夫の欠点に対して本気で激オコの奥さま井戸端会議と化してとげとげしいか、またはノロケに走ってしまい、読む側をうんざりさせるようなデコレーションになることが多い。

 夫が妻の生態を描き出す時。
 そこには妻を、男とはまた違う、別種の生き物として距離をとって観察している視点が入る。
 人種「おばさん」期に突入した妻は、夫に衝撃を与える何か別のものとして、どうやら夫の前にどどんと立ち塞がっているようなのだ。

 その「何か」は階段にフライパンを置くらしい。なぜ階段にフライパンを置く。
「夫はわたしの下僕。そして無制限利用可能なATM」
 どちらさまで?

「パンダ嫁のP子」

 奥さまがそうお答えになったわけではないが、夫の脳内の現実逃避がついには妻をパンダにしてしまった。
 もうそうするしかなかった。
 パンダとまで変化するならば、何か家の中で起っても、「パンダだしな」と夫も諦めの境地で達観できるというものだ。

 パンダさんは何かあるたびに法螺貝を吹いて夫を呼びつける。
 その度に、この家の平和を守る使命を帯びた夫はパンダ嫁の許に駈けつけて、
 今度は何だ。
 とごくりと喉を鳴らすのだ。

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