学祭の正座告白で奇跡が現実へ、読後に温い余韻が残るきちんと締まる恋譚

 『一目惚れ』は、恋の始まりを「美しい人を見た」で止めず、身体の反応として刻んでいく短編だ。風に揺れる栗色の髪やワンピースの裾、耳に残る声が、視線を奪われた瞬間の熱と痛みを呼び戻し、主人公アランの鼓動がそのまま読者にも伝わる。

 熱が暴走しそうな場面で、物語がきちんと止めるのも良い。学祭のミス・キャンパス発表で再会したアランは衝動でステージに上がり、横山に制されて正座する。そこで危害の意思がないことを体で示し、詩織に確かめ、震える声で告白する。詩織も正座して返事をし、大げさな演出ではなく距離が静かに縮まる。

 さらに、誠実さが台詞だけでなく、探し続けた時間と後悔の積み重ねで支えられている。1話完結の中で、出逢いの眩しさから再会、その後の人生までを滑らかにつなぎ、別作品への橋渡しも夫婦の現在に納得を与える補強になっている。

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