『可能性』という名の狂気。真実が一つではなくなる不安定で不条理な世界

 不条理。まさにその言葉が似合う一作です。

 本編の主人公は「通報」を受けた警察官。相手はどうやら母親らしいが、息子の「未知人」が「部屋の中で死んでいる可能性もある」と伝えてくる。

 どういうことか、と詳しく話を聞いてみると、「シュレディンガーの猫」の理論について説明される。

 箱の中の猫は死んでいる可能性と生きている可能性が半々。箱を開けて「観測」するまでは両方の可能性が同時に存在しているという。

 だから部屋の扉を開けてしまえば、「可能性」が一つに収束してしまう。逆に言えば扉を開けさえしなければ、息子は生きているかもしれないし、もしかしたら社会的な大成功を収めている存在になっているかもしれない……という。

 これを聞いて、あまり緊急性はなさそうだと判断する警官。そこで話はいったん終わるのだが、次にはまた「別の通報」が……。

 「可能性」というものを考え出すと、どんどん世界にはカオスが拡散していく。「扉をはさんでの話」だけではなくなり、それはやがて電話を受ける警官のもとにまで波及することに。

 「真実は一つ!」ではなくなること。それがいかに世の中を不安定にし、人の精神をぐらつかせるものか。
 「可能性」という名の狂気に侵食された世界。まさに「不条理」に満ちたこのシチュエーション、是非ともご堪能ください!

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