円環の内側で魔術は完結する

『円環は閉じていた』
魔術は、唱えない。
紙（パペロ）に記された記号と、円環に接する起動印を魔力でなぞることで、世界に命令を実行させる――それが記号技術魔術体系、通称《ヴォカロス》である。
一つの魔術は一つの円環で完結し、円環の外は一切関与しない。
正しく描かれ、正しくなぞられた術式は、必ず発動する。
少なくとも、学院ではそう教えられていた。
しかし、ある日。
規定通りに完成したはずの術式が、何の前触れもなく失敗する。
爆発も暴走も起きず、ただ静かに霧散するその現象は、教本に存在しない。
ヴォカロス学院での日常は、変わらない。
授業、実習、雑談、試験。
開祖が最期に遺した「円環は、必ず閉じていなければならない」という言葉も、歴史的資料として扱われるだけだ。
それでも主人公は、違和感を覚え続け…続きを読む