第2話・実習と成功例
実習室は、いつも少しだけ緊張する。
机の配置は講義室と同じなのに、
ぺパロとインクが並ぶだけで空気が変わる。
魔術を“書く”場所だからだ。
「今日は単純光生成だ」
教官が淡々と告げる。
「直径十五センチ。
教本第三章の図式そのまま。
余計な工夫はいらない」
「楽なやつだな」
誰かが小声で言って、周囲が少し笑った。
主人公も、肩の力を抜いてパペロを広げる。
円環を描き、記号を配置し、起動印を確認する。
――閉じてる。
たぶん、大丈夫。
線幅は少し太い気がするが、許容範囲だろう。
実習は、完璧さよりも再現性が重視される。
「起動」
合図と同時に、指先に魔力を集める。
起動印をなぞる。
それだけだ。
パペロの上に、淡い光が灯った。
「よし」
周囲でも、同じような光が生まれている。
失敗した様子はない。
「全員成功だな」
教官はそれだけ言って、記録板に印をつけた。
主人公は、少しだけパペロを見つめた。
光が消えるまで、ほんの一拍、間があった気がした。
(……気のせいか)
周りの光と見比べても、違いは分からない。
そもそも、じっと見ている学生なんていない。
「片付けろー。
次の授業に遅れるなよ」
ざわざわと、実習室が動き出す。
主人公も魔力を引き、
パペロを畳んだ。
そのとき、ふっと胸の奥に、
空になりきらない感じが残った。
だが、それもすぐに薄れる。
(疲れてるのかな)
昨日の講義は長かったし、
寝不足気味でもあった。
主人公は、深く考えることなく、
パペロを鞄にしまった。
魔術は成功した。
実習も問題なし。
それで十分だ。
円環は、きちんと閉じていたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます