概要
月を描くたび、人の貌が削がれゆく。
夜の京都・鴨川の長椅子で、若き畫家・鏡花はただひとり、月だけを描き續けている。
SNSに投げ込んだ繪に返ってくるのは、溫度を失った贊辭の斷片ばかり。屆かぬ言葉と手應えのない稱贊に滿たされぬまま、それでもなお彼女は、油彩の重さと筆觸だけを賴りに、「本物の夜」を畫布に刻みつけてゆく。
ある秋の夜、川邊に現れた月光のかたちをした男との邂逅を境に、鏡花の右眼は、夜の輪郭だけを捉える異樣な視力を宿し始める。やがて開かれた月の連作展では、來場者たちが同じ夢に囚われ、淚し、崩れ落ち、掌には白い繪具とも光の塵ともつかぬものが殘る──そんな顯れが、靜かな美術館の空氣の中でひそやかに連鎖してゆく。
稱贊の言葉は、畫布の緣に貼りついた紙片のやうに、光に觸れることもなく褪せていく。
やがて鏡花が欲する
SNSに投げ込んだ繪に返ってくるのは、溫度を失った贊辭の斷片ばかり。屆かぬ言葉と手應えのない稱贊に滿たされぬまま、それでもなお彼女は、油彩の重さと筆觸だけを賴りに、「本物の夜」を畫布に刻みつけてゆく。
ある秋の夜、川邊に現れた月光のかたちをした男との邂逅を境に、鏡花の右眼は、夜の輪郭だけを捉える異樣な視力を宿し始める。やがて開かれた月の連作展では、來場者たちが同じ夢に囚われ、淚し、崩れ落ち、掌には白い繪具とも光の塵ともつかぬものが殘る──そんな顯れが、靜かな美術館の空氣の中でひそやかに連鎖してゆく。
稱贊の言葉は、畫布の緣に貼りついた紙片のやうに、光に觸れることもなく褪せていく。
やがて鏡花が欲する
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