これは記憶の物語。過去のアルバムをめくるように、お読みください。

 時代は昭和30年代。作者さまが生まれた時代を非常に丁寧な筆致で描かれた作品です。

 まだ日本は貧しく、技術進歩はまだまだ。今の時代に比べれば、不便なことばかりです。
 トイレも水洗ではなく、どっぽんトイレ時代ですが、人びとのつながりは深く密接でした。

 本作の魅力は、そうした細部のこだわりです。
 路地裏の風景や商店街の喧騒、テレビから流れる流行歌、トイレの話、電化製品の話、筆者が生まれたときの産屋の様子。

 古い時代を反映した物語は、どこか懐かしく、読んでいると昔のアルバムをめくり、一枚一枚と写真をみているような気持ちになります。

 ネット社会で生きるわたしたちが置いてきた世界がここにあり、胸の奥に温かい気持ちが、じんわりとわきあがくるような作品。

 どうぞ、お読みください。おすすめです。

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