はぁ……。読んだあとに、こんなため息をつくことになるなんて。
このため息は、言葉にできないいろんな感情が空気になって出たやつです。もしこれが紙の本だったらその場で抱きしめてた。本当にこの物語を抱きしめたい。登場人物を抱きしめたい。心からそんな感情が湧くんです。
これは人類の大部分がウイルスによって滅んだ世界の物語で、主人公の視点で語られる日常の様子なのですが、繰り返しの毎日生活の中で少しずつの変化。本人には悲壮感がないのに、随所に薄く感じ取れる悲しみとか寂しさがずっと横たわっていて、何度も繰り返される「主婦でよかった」の言葉が、読者をも支えるんですよね。本当に主婦で良かった、と。
衝撃的な事実も淡々とした表現の中で明らかになるのですが、フラットな感情の世界のなかに、切なさとやさしさと、なんとも愛おしい世界のすべてに対し、情緒がぐちゃぐちゃにされる感じ。
正直読んでいてうっすらと涙してしまったのですが、不思議な感動の涙でした。哀しさとか寂しさとかの要素も含まれるけど、人に残ったやさしさに対する安堵、主人公の真摯な姿とか、いろんな感情のごった煮の涙。語彙力がなくて「感動した!」としか言いようがないのですが、感動という言葉の中にいろんな色がつくというか。
読了後に何度も、この物語を反芻してしまう。この作品の素晴らしい部分を簡潔に表現できる言葉がどうしても出てこなくて、これはもう読んだ人だけが体感できる特権かも。言葉にならない、まとめることがこんなにも難しい、しかし幸せとも感じる心地よい気持ちが胸に溢れるなんて、滅多にないのことではないでしょうか。
リズミカルな筆致、読みやすい文章、すばらしい描写力で読んだ事を絶対に後悔しない作品。ぜひこの感動の体験をしてみてほしいです。
タイトルの感じから、主婦あるある満載にしたコメディ寄りの作品だと思って読みました。
全然違いました。
パンデミックで家族を失い、ロボット犬とともに取り残された主婦のセンチメンタルな物語です。
「いつも通りの生活をしよう」という亡き旦那さんの言葉は、この壊れてしまった世界において、何気ない当たり前の生活が、いかに尊いものであるかを物語ります。
あらゆるものが失われ、もうあの頃の生活は二度と戻らない。
だからこそ、最後まで失ってはならないものがあり、それを教えてくれる作品でした。
いや、ロボット犬でよかった……。
これ、生身のワンちゃんだったら辛くて読めなかったよ……。
もし、致死性ウイルスが蔓延る世界で、ただ一人取り残されてしまったら。それでも続いていく日々を、皆さんならどんなふうに過ごしますか?
大切な人に先立たれた喪失感、静かすぎる外を恐れる気持ち、重量感すら覚える孤独、自分が生き残ったことへの自責の念、消費していく一方の資源、寂しくてもお腹は空く、食料のストックはまだ大丈夫? 今後の身の振り方は、どうすれば……私なら、ありとあらゆる不安の洪水に溺れて、前を向いて歩き出すまでに、相当の時間をかけてしまうかもしれないな、と思いました。
しかし、本作の主人公である主婦は、そんな私とは意識が大きく異なります。
――どんな時でも平常心を忘れずに。いつも通りの生活をしよう。
彼女の主人が遺した言葉を胸に、彼女は日常のルーティンを毎日こなしていきます。朝の六時にはロボット犬のロビーに起こしてもらい、日課の散歩に出掛けます。家に帰ってきたら、亡くなった家族の分の缶詰を食卓に並べて、掃除と洗濯に励み、無人のスーパーマーケットまで買い出しに向かう…… 終末世界の静けさを映したようなトーンで展開される物語には、大勢が命を落としたという事実が厳然と存在していても、生きていく力強さが根付いていました。
彼女の在り方を定義した家族は、もうこの世にはいません。けれど、家族と作ったかけがえのない思い出の数々が、いつか前を向くための力になることを、彼女のひたむきな生き方が示してくれたように感じました。
そして、そんな姿勢は、彼女と同様に「取り残されて」しまった存在の心にも、新たな希望を灯すのだと信じられたとき、命という形を失ってもなお、脈々と受け継がれていく温もりを感じて、泣きたくなるような尊さが胸に迫りました。
SFの世界で起きたパンデミックという状況下でなくとも、ふとした瞬間に寂しい隔絶感を覚えたり、当たり前のことができなくなったりすることは、現代でも誰にだって起こり得ることだと思います。そんな心に、優しい温度で寄り添ってくれるような物語でした。
皆さんもぜひ、この週末世界に降り立って、彼女が守り続けている「いつも通り」の日々を、追体験してみてはいかがでしょうか。きっと、誰しも心の中で温めている大切なものが、もっと愛おしくなるのだろうなと、この物語から温もりを引き継いだ一人として、強く思いました。おすすめです!
規則正しい生活を送るためには、十分な睡眠や運動、健康な食事が欠かせません。どれかが欠けてしまえば、心身に不調をきたしてしまいます。
主人公の主婦が毎日欠かさず行っていることは、決まった時間に目覚めること。お洗濯お掃除お買い物などの家事。そしてロボット犬のロビーを散歩すること。最後の情報が近未来の世界っぽいと、歓喜されたSF好きの方もおられるでしょうか。
致死性ウイルスで日常が大きく壊れた世界。物資の供給や未知のウイルスによる不安は、メンタルに打撃を与えかねません。そのような世界で、いつも通りの生活を送ろうとする主人公。先行きの見えない中、ルーティーンを守ろうとする彼女の姿に主婦のすごさを感じました。
好きな食べ物や清潔な着替えが用意されていて、家に帰ったらおかえりなさいと言ってくれる。そのありがたみが身に沁みる終末世界へ、足を踏み入れてみてください!
まず、タイトルの妙味に惹かれました。
「主婦」とパンデミック後を意味する「アフターパンデミック」という、イメージに大きなギャップのある言葉を並べたことで、興味深いタイトルになっていると思います。
「ハウスワイフ」と英語表記にせず、「主婦」と、このワードだけ日本語にしたことで、よりそのイメージの開きが際立ち、面白味に繋がっています。
物語は、パンデミック後に取り残された主婦が唯一残されたロボット犬と共に過ごす様子から始まります。
当然、一人と一匹しかいないという寂しさが作品冒頭から立ち込めます。
けれど、この作品の切なさはそれだけにとどまりません。
大切な人々が消えた世界において、傍らに誰かが(今作ではロボット犬が)いてくれることの温かさがしっかり感じられると同時に、それが失われてしまう気配も常に漂っているからです。
最後には、本当に一人ぼっちになってしまうのではないか、という哀しさが物語へ切ない緊張感を与えています。
そして、実は物語には大きな仕掛けが存在します。
その仕掛けの上手いこと。
全く違和感を覚えさせずに、それでも種明かしがされた時には、それまで普通に捉えていたものが驚きの事実に繋がる。
語り手の主婦が残っている理由や、頑なに日常通りの生活をする理由などが、明かされる事実にカチリと嵌る。
それ以外にも、なるほど、そういう事だったのかと、作品の節々の言葉の真意が分かります。
おそらく、地の文の語り口調にまで配慮されていたのでしょう。
見事だなと思います。
この事実は、驚きの展開と言うだけでなく、さらに寂しさの気配を強くする、という作品の性格の意味でも機能していたように思います。
けれど、悲しさだけで終わりはしませんでした。
人の優しさ、そして語り手の未来に希望の兆しが感じられて、物語は幕を閉じます。
このラストも含め、お話としても綺麗にまとまっていました。
物語の大きな仕掛けと、もの寂しい雰囲気、そしてラストにある希望が魅力的な作品です。
致死性ウィルスにより、人類のほとんどが死滅した終末世界で、一人の主婦が淡々と家事をこなす物語です。主人公の主婦は、すでに家族を失っているにもかかわらず、淡々と決められた時刻に起きて毎日の仕事を続けているのです。
彼女の友達はロボット犬のみ。やがてそのロボット犬のバッテリーが消耗しきったため、彼女は新しいバッテリーを求めて街に行き、わずかに生き残った人々と出会うのです。
とにかく、社会が破滅してしまったあとの終末世界の描写と、淡々と規則正しい生活をこなす主婦の対比が心を打ちます。恐ろしい世界観の中に灯る、あたりまえの家庭のありふれた生活。それを粛々と維持する主婦。それはまるで一幅の絵画のよう。
その荒涼とした風景画に、作者の身体に脈々と流れるSFの血が、熱い魂を吹き込んでいます。読者はどうしても中盤に仕掛けられたギミックに目がいってしまうと思いますが、それとともに、描かれた世界の不思議な美しさ、しずかに終末を見つめる主婦の心情も堪能してもらいたい。
素晴らしいSFです。
読み終えた私の胸に、セルフマイニングという言葉が浮かび上がりました。
既にある言葉なのか調べると、仮想通貨に関する用語のようです。
しかしそんな従来の意味でなく祝福の意味で、主人公の『私』に贈りたいと思うのです。
アーバンマイニングという言葉があります。
壊れたりして用を終えた製品から、レアメタルやレアアースなどを回収することです。
人も、あるいは意思ある者すべてにも、同じことができるのではないかと。
誰しも病や老い、ほかにも様々な要因で、それまでにあった『いつも』を手放さなければならない時が来ます。
悲しく、寂しく思うのは当然で、立ち止まってしまうこともあります。
でも『私』の中にある培ったあれこれは、『私』の思いさえ変えられれば活かせるのです。
難しいのは、思いを変える部分なのです。
セルフマイニングに成功した『私』を、読者である私は尊敬します。
また多くの困難があるかもしれませんが、きっとうまく躱していくでしょう。
レビューになっていないかもしれませんが、この作品を読んでの正直な感想でした。
感動いたしました……。
主人公は、主婦です。
と言っても、世界は大規模なパンデミックに襲われたみたいでして、残っている人間は僅か。
……そして、この主婦にももう、家族と呼べるものはおりません。
それでも、「普段通り過ごそう」と、この主婦は、
ロボット犬「ロビー」と共に、日々を逞しく生きるのでした。
しかし、そんな生活にも翳りが。
ロビーの電池が切れてしまったのです。ソーラーで、エネルギー供給されている間だけ、元気なロビーしかし、その命は風前の灯火。
護ものも、出迎えてくれる人もなく、
彼女は一体、なんのために生きるのか……?
これねえ、後半にとんでもないどんでん返しがあるんですよ。
これでびっくりした……。
彼女だからこそのセリフだと思います。
人として、何が大切な行いか。
お勧めいたします。
ぜひ、ご一読を。
新型コロナが記憶に新しいですが、私は2009年の新型インフル騒動を
今も覚えています。買い物のために外へ出ると、人の声がなくしんと静まり返り、
春だというのに真冬の張りつめた空気を感じました。
この作品は、その時と同じ空気を感じます。
家族の中でただ一人生き残った主婦が、ロボット犬と共にかつての日常を
意識的に繰り返す様は、薄氷の上を歩いているようで背筋がソワリとします。
普通であろう、普通に振舞おうとする姿から伝わってくる狂気。
だけどその行動の意味を知った時、今まで見えて来たものとは別の光景が
私たち読者の前に広がります。
短編で淡々としていますが、とても濃く、胸の中に光景の焼きつく作品です。
致死性ウイルスのパンデミックで、一部の人間を除いてほとんどの人類が死滅した世界。
この『主婦』は、いつも通りの生活を送る事で自我を保っていた。そう、ロボット犬の愛犬ロビーと共に。
致死性ウイルスのパンデミックという、実際にありそうな世界観。そして、家族を亡くしてもそこに生きて行かなければならないという恐怖。
ネタバレしたくないので細かい事は書きませんが、とにかく読んで下さい。この作品は、心にとても大切な事を思い出させてくれます。
人は、どう生きて行ったら良いのか……。
こういう極限状態で、人はどうふるまうべきなのか。
私は今、PCの前で涙を流しながらこれを書いています。本当に涙を流しているんです。嘘ではありません。
この作品から受けた強烈な感動に、どう賛辞を送って良いのかすら分かりません。
ただ、言えます。
──読んでみて下さい。