きっと、誰しも心の中で温めている大切なものが、もっと愛おしくなる
- ★★★ Excellent!!!
もし、致死性ウイルスが蔓延る世界で、ただ一人取り残されてしまったら。それでも続いていく日々を、皆さんならどんなふうに過ごしますか?
大切な人に先立たれた喪失感、静かすぎる外を恐れる気持ち、重量感すら覚える孤独、自分が生き残ったことへの自責の念、消費していく一方の資源、寂しくてもお腹は空く、食料のストックはまだ大丈夫? 今後の身の振り方は、どうすれば……私なら、ありとあらゆる不安の洪水に溺れて、前を向いて歩き出すまでに、相当の時間をかけてしまうかもしれないな、と思いました。
しかし、本作の主人公である主婦は、そんな私とは意識が大きく異なります。
――どんな時でも平常心を忘れずに。いつも通りの生活をしよう。
彼女の主人が遺した言葉を胸に、彼女は日常のルーティンを毎日こなしていきます。朝の六時にはロボット犬のロビーに起こしてもらい、日課の散歩に出掛けます。家に帰ってきたら、亡くなった家族の分の缶詰を食卓に並べて、掃除と洗濯に励み、無人のスーパーマーケットまで買い出しに向かう…… 終末世界の静けさを映したようなトーンで展開される物語には、大勢が命を落としたという事実が厳然と存在していても、生きていく力強さが根付いていました。
彼女の在り方を定義した家族は、もうこの世にはいません。けれど、家族と作ったかけがえのない思い出の数々が、いつか前を向くための力になることを、彼女のひたむきな生き方が示してくれたように感じました。
そして、そんな姿勢は、彼女と同様に「取り残されて」しまった存在の心にも、新たな希望を灯すのだと信じられたとき、命という形を失ってもなお、脈々と受け継がれていく温もりを感じて、泣きたくなるような尊さが胸に迫りました。
SFの世界で起きたパンデミックという状況下でなくとも、ふとした瞬間に寂しい隔絶感を覚えたり、当たり前のことができなくなったりすることは、現代でも誰にだって起こり得ることだと思います。そんな心に、優しい温度で寄り添ってくれるような物語でした。
皆さんもぜひ、この週末世界に降り立って、彼女が守り続けている「いつも通り」の日々を、追体験してみてはいかがでしょうか。きっと、誰しも心の中で温めている大切なものが、もっと愛おしくなるのだろうなと、この物語から温もりを引き継いだ一人として、強く思いました。おすすめです!