物語の大きな仕掛けと、もの寂しい雰囲気、そしてラストの希望が魅力的
- ★★★ Excellent!!!
まず、タイトルの妙味に惹かれました。
「主婦」とパンデミック後を意味する「アフターパンデミック」という、イメージに大きなギャップのある言葉を並べたことで、興味深いタイトルになっていると思います。
「ハウスワイフ」と英語表記にせず、「主婦」と、このワードだけ日本語にしたことで、よりそのイメージの開きが際立ち、面白味に繋がっています。
物語は、パンデミック後に取り残された主婦が唯一残されたロボット犬と共に過ごす様子から始まります。
当然、一人と一匹しかいないという寂しさが作品冒頭から立ち込めます。
けれど、この作品の切なさはそれだけにとどまりません。
大切な人々が消えた世界において、傍らに誰かが(今作ではロボット犬が)いてくれることの温かさがしっかり感じられると同時に、それが失われてしまう気配も常に漂っているからです。
最後には、本当に一人ぼっちになってしまうのではないか、という哀しさが物語へ切ない緊張感を与えています。
そして、実は物語には大きな仕掛けが存在します。
その仕掛けの上手いこと。
全く違和感を覚えさせずに、それでも種明かしがされた時には、それまで普通に捉えていたものが驚きの事実に繋がる。
語り手の主婦が残っている理由や、頑なに日常通りの生活をする理由などが、明かされる事実にカチリと嵌る。
それ以外にも、なるほど、そういう事だったのかと、作品の節々の言葉の真意が分かります。
おそらく、地の文の語り口調にまで配慮されていたのでしょう。
見事だなと思います。
この事実は、驚きの展開と言うだけでなく、さらに寂しさの気配を強くする、という作品の性格の意味でも機能していたように思います。
けれど、悲しさだけで終わりはしませんでした。
人の優しさ、そして語り手の未来に希望の兆しが感じられて、物語は幕を閉じます。
このラストも含め、お話としても綺麗にまとまっていました。
物語の大きな仕掛けと、もの寂しい雰囲気、そしてラストにある希望が魅力的な作品です。