これは「花魁もの」ではない。「選ばれた女の牢獄」の物語だ

舞台は天明期の尾道。港町の遊里「新町」で生きる傾城・吉野は、かつて太夫・東雲の禿
として育てられた女である。



茶の点前、教養の裏で、彼女は常に「選ばれる側」として生きてきた。
この作品が描いているのは、色街の艶やかさではない。
選ばれることによって逃げ場を失っていく女の人生である。


吉野は水揚げの夜、ついに身体を奪われることはなかった。
しかしそれは救いではなく、むしろ彼女を縛る別の鎖となってしまう。

上客・八利の旦那の後ろ盾。
町年寄と結びついた遊里の政治。
「茶を点てられる女」という希少性。


それらが重なり、吉野は次期太夫へと押し上げられていく。
だが彼女が本当に欲しいのは、名声でも華でもない。
村に残した家族――とくに、自分と同じ運命を辿りかねない妹を救うことだけだ。
そのために、彼女は自ら年季を三年延ばす。


自由が近づくはずの人生を、あえて自分で引き伸ばす。
これは献身ではない。これは牢獄の再契約だ。
本作の最大の美点は、すべてが『やさしい言葉』で進むことにある。


文章は端正で静かで、情景は美しい。
だが読み進めるほどに、読者は気づく。
これは恋でも情でもなく、社会そのものによる監禁の物語だと。
最後に残るのは、
『吉野はもう、どこにも帰れない』という痛切な余韻である。


まだまだ序盤ですが、今後とも注目しようと思います。