おお、これぞSFだなあ、と設定がとても面白かったです。
この世界に住む人間(というか全ての哺乳類も)は全員が「卵を産むことで子孫を増やす」という体をしている。
そんな中で主人公である満里奈は「卵黄欠乏症」として卵を産めない。そのために子供は諦めるしかないと思っていた。
でも、諦めなくていいかもしれない。卵生が絶対となっているこの世界の中で、「子宮」なるものを体の中に移植することで、人間が直接胎内で子供を育てて産むことができるようになると伝えられる。
この感じがまさにSF。「大前提」となっている自然界の条件を別のところに置くことで、現在は「普通」となっていることを「特別」なものにシフトさせてみせる。
現実世界では「当たり前」になっている「子宮での出産」を全人類の中で初めて経験することになる満里奈。その心の動きが仔細に描かれていくことが本作の何よりもの魅力です。
「前例」がまったくないことのため、実験動物に近いような気分にも。その辺りの不安と葛藤がありありと伝わってきます。
SF的発想と、その後の細やかな心情描写。とても読み応えのある素敵な作品でした。