とても考えさせられる作品でした

この作品を読んで、一番脳裏に浮かんだ言葉としては「対比の妙」である。

まず、現代の米騒動とこの作品の時代の不作とでは、世界の厳しさが違う。そこから端を発して、舞台は遊郭へと繋がっていく。

現代は、易きに色香を使って、SNSでは閲覧数を伸ばす向きがあるが、この小説の時代にあっては、すべては生きるためである、家族を生きながらえさせるためである。

そんな中でも、人は恋をする。商売でない、リアルな恋である。

話は身請けにまで及ぶ。そこの機微について、本作を読んで味わってほしい。

また、この当時にあっての子育ての大変さを想像するに(男は何もしない!しかも、浮気や遊びも芸のうちのように言い訳言葉がいろいろある)、本当に大変な時代であったろうなぁ、といろいろ考えさせられる。

全編通して、時代考証、筆致、何より当時の人々の心情への考察、時代感覚とでも言おうか、それらが素晴らしい。想像だけで書いたと筆者は言うが、こういった作品を見ると「想像力こそ小説の源泉である」ということがまざまざと考えさせられる。

文章における対比も実に巧く練られている。後半に出てくる「冷たい」もの、と「温かい」ものとの対比は見事としか言いようがない。

文中に出てくる囲碁や白檀や香木は、それぞれ象徴するかのような登場もしてくる。

最大のライバルになるかもしれぬ筆者に塩を送ることになるやもしれぬが、これを目にしては褒めざるを得ない。最大級の賛辞をここに贈るところである。

他の追随を許さず真似出来ない時代小説をご堪能いただければ、と思う。

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梅香の茶