草刈りから始まる、町の再生と心の物語

 この物語『怪物さん』の魅力は、日常の裏側にひっそりと潜む“見えない何か”を、淡々とした語り口で丁寧に描き出しているところだと思います。

 主人公が草刈りを通じて、ただの作業では片付かない「土地の重さ」や「人の心の闇」と静かに向き合う姿がすごく印象的でした。黒わた菓子という怪異が登場しても、主人公が特別な力を持っているわけでもなく、「まあいいか」と少し突き放したような態度を崩さないのがリアルで面白いです。

 そして、草刈りや深夜の散歩をきっかけに、町や人々に少しずつ明るさが戻る現象も、ファンタジーと現実の間を絶妙に行き来する不思議な余韻を残してくれます。読むうちに“この世界に少しだけ魔法がかかる瞬間”を体験できる、そんな感覚に包まれました。

 人生にちょっと疲れたり、孤独や人との距離感を感じた経験がある人には特におすすめです。現実の延長線上にある“ささやかな奇跡”を味わいたい人に、ぜひ読んでほしい一作です。

その他のおすすめレビュー

悠鬼よう子さんの他のおすすめレビュー1,240