世の中に たえて桜の なかりせば── 澪月は光となりて生まれいずる。
- ★★★ Excellent!!!
——声は月下に沈み、
光は闇の奥より息を吹き返す。
そのはざまに生まれ落ちたのが、
澪月という名の、ひとしずくの魂である。
その姿は、
まるで天人の羽衣を奪われたもののごとく、
人の世にも、妖の世にも属さぬ“はざまの子”。
気高きものと、儚きものの境界に立つ存在である。
そのすべてを奪われた澪月を抱き上げたのは、
揚知客——
己が絵筆の迷いの果てに流浪した青年であった。
まるで運命が、
ひとつの灯をもうひとつの灯へと引き寄せたかのように。
澪月が零す涙は、
怨嗟の涙ではない。
それは、長い孤独がはじめて崩れ落ちたときに流れる、
あらゆる呪縛を浄める滴である。
夜は明ける。
天人桜の枝はゆるりと風に応え、
薄紅の花弁は、
救いを謳う祈りのように舞い散っていく。
そして静かに告げる。
——澪月よ。
汝は新たに生まれた。
ゆるされ、迎えられ、ここに在れと。