文明の意味と宿命を、銀河という生命の循環に求めるこの作品は、現代物理学で未解決の問題『ブラックホールの情報パラドックス』と『初期銀河の巨大ブラックホール成長』を解決すべく、銀河の中心にブラックホールでなく『球状巨大構造体』=『卵』を求める野心的な論文……の体を取った、SFエンタメです。
私はこの作品が、
・初期の文明=情報の低エントロピー状態を、意味情報が豊富に作られる『卵』にとって都合のよい状態と仮説し、
・成熟した文明=情報の高エントロピー状態を、意味情報があまり作られない『卵』にとって都合がよくない状態と仮説する……
ことで、「文明の成熟=善」という、我々が大前提のように思っていることをひっくり返しているところが面白いと思います。
そして、銀河すべてで文明が成熟しきって、もはや意味情報が作られなくなったとき――『卵』は何を選択するのか
我らが後生大事に思っている文明なるものを、銀河という生命の視点から軽やかに見つめる良作だと思います。
この作品は、学術論文のかたちをしながらも、とても静かで、どこか物語の香りをまとった不思議な読み心地があります。
銀河の中心を“卵”と見立てる発想はとてもユニークで、読み進めるほどに「もしかしたら本当にこうかもしれない」と想像がふくらんでいきます。
難しそうなテーマを扱っていますが、文章は落ち着いていて読みやすく、専門知識がなくても自然と引き込まれるのが魅力です。
文明を“意味情報の生成”として捉え直す視点も新鮮で、宇宙と私たちの営みが、思いがけない形でつながっていく感覚を楽しめます。
追記:
特筆すべきは、参考文献がすべて2030年代のものであり、特殊相対性理論による先の時間軸から引用されている点である。
”卵”の影響は、このようにはっきりその存在を証明されている。