静かな夏が、じわりと冷えていく――

ひとことで言うなら、静かな田舎の空気と、胸の奥を冷やすような怪異の気配が、じわじわと絡みつく物語です。

都会で夢を失いかけた記者・真那が、過去の資料をきっかけに故郷へ戻るところから物語は始まります。そこには懐かしい景色があるはずなのに、どこか現実がうまく噛み合わないような“虚しさ”が漂っていて、その静かな違和感にまず心を奪われます。

特に印象的なのは、取材対象として登場する三司祈李という少女の存在。
彼女の視点で語られる過去の夏は、眩しい青春というよりも、孤独と息苦しさの中で、音楽だけが救いになるような静かな痛みに満ちています。

そんな祈李の前に現れる、明るく距離の近い少女・澄希。
彼女との出会いは、読んでいて本当に不思議な感覚になります。温かくなりそうなのに、どこか現実味が薄くて、優しさの中に“怖さ”が混ざっているように感じてしまうのです。

そして随所に差し込まれる夢の描写――
冷たい風、闇の落下感、聞き取れない声、そして「カチッ」という音。
この作品のホラーは大きな叫び声や派手な演出ではなく、「あれ、今の何?」という違和感の積み重ねで読者を追い詰めてきます。
その静かな圧が、少しずつこの物語に深みと、その先への興味を高めていってくれます。

登場人物たちの会話も魅力的でした。軽口の中に疲れや諦めが混じっていたり、優しさが不器用にすれ違っていたりして、どの人物にも「生きてきた傷」が見えてきます。だからこそ、怪異だけではなく、人間関係の痛みとしても刺さるのだと思います。

田舎の伝承を追う物語が好きな方、青春のきらめきよりも“取り返せない過去”に惹かれる方、そして静かに心を侵食してくるホラーを求めている方には、ぜひおすすめしたい一作です。

読み終えたあと、ふと夜の風の音が怖くなる。
そして怪異がどんな形で侵蝕していくのか……
独特の余韻が残る、不思議な作品だとわたしは、感じました。

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