衝撃的なプロローグがまず強烈でした。
“終幕”と呼ばれる惨劇を竜の視点から描き切ることで、読者の心を一気に物語へ引き込んでいます。
処刑場の血の匂い、群衆のざわめき、原型もなく転がる「大切な人間」という残酷な情景は、導入として忘れがたい印象を残します。
そして最後に放たれる「――ルシア。君は、オレの臓器(いかり)だ」という不可解な言葉が、伏線としての強いフックになっているなと感じながら読み進めました。
本編では、貴族遊戯ドラグデュエルや竜継の儀といった制度・世界観が丁寧に提示されることが印象的でした。それが決して、固い設定説明に終わらないところは、やはり筆の力と言えるのでしょう。
ルシアの焦りや危機感に紐づいて情報が開示されるため、自然に理解でき、しかも緊張感が途切れません。また、社交の場において「笑うことすら戦い」というルシアの感覚が一貫して描かれており、この世界では剣や竜だけでなく、視線や言葉もまた刃になるという設定は、特徴的で面白く読ませていただきました。
ルシア自身も、武力ではなく礼節と沈着さで生き残る“強さ”を備えた主人公として立っており、構造そのものが、彼女に感情移入しやすい点も学びになりました。
一方でアルトの人物像は、優しさが救いであると同時に危うさにもなっている点が好印象です。他者の痛みに敏感で、状況が悪いほど穏やかに振る舞う姿に、「この優しさはいつか折れるのではないか」という危うさが感じられました。そして、その危うさこそが物語に芯の緊張感になっているのではないかとも思いました。
なにより最大の魅力装置はカグツチ。マシュマロやハムに反応する子どものような無邪気さを持ちながら、戦闘になると“灼けた空そのもの”のような異質な強さを見せるギャップが鮮烈!
さらに「竜は痛みを感じない」という常識を覆す要素が提示されることで、竜を道具として扱う国の掟と、アルトの価値観、ルシアの学んできた常識が静かに揺らぐ場面は、相当に繊細な設定に思えました。
加えて「玉座の傍、もう一つの席」の視線が消え、背中に圧が貼りつく感覚で不穏を深める演出も巧く、次章への引力も強い序盤。世界がきれいに整えられているのではなく、最初から歪んだまま進んでいる予感は、このタイトルがどのように回収されていくのか、そんな期待を強く感じられました!
ファンタジーですが、こういうのを「悪役令嬢もの」というのでしょうか? その辺り、詳しくないからよく分かりませんが、今作は読み手をルシアに感情移入させるための導入が順序を踏んで書かれており、その構成にまず感心しました。
また簡潔でありながら、繊細でかつ気品を感じる文章もとても優れています。特に第10話のラストには息を呑みました。あえて迂遠に表現することが、これ以上ない信条描写として効果をあげていました。
設定は少し複雑ではあるものの、読んでいれば自然に理解できるように、徐々に世界観を描写しているため、分かりにくいとは感じませんでした。
続きを読みたくなるような魅力が、冒頭から感じられる作品だと思います。
作者さんの筆力と構成意識の高さが、冒頭からはっきり伝わってくる作品でした!
「――間に合わなかった」
という導入から一気に沸き起こる緊張感。
その後も感情・状況・政治的な危うさを途切れさせずに積み重ねていく流れが、めっちゃくちゃ巧みです!
その腕は世界観や設定の説明にも表れていて、竜を『道具』として扱う周囲と、アルトやカグツチの感情とのズレなど、会話と所作だけで読者に「気づかせる」ような構成になってます。
同じ物書きとして、見習いたいなあと思うばかりです……。
静かな会話劇の中で、王家・貴族社会・竜の価値観が自然に絡み合い、先の展開への不安と期待が同時に残る本作。
完成度が高く、作者さんの地力をしっかり味わえる一作だと思います。
ぜひ皆さんも読んでみてください!