孤独な少女を包み込む夏の出会いの物語
- ★★★ Excellent!!!
本作を読み、まず印象に残るのはその優しい筆致でしょう。
夏の涼しいそよ風に、孤独を与える雨。そういった夏の田舎町を丁寧に描写することで、とある少女の目線がまざまざと思い浮かべられます。
彼女は心に深い悲しみを宿しており、そんな彼女の心を繊細なタッチで描くことにより、物語の展開はより印象的に、より深みを増して展開していく。
そして彼女を捉える複数の眼差しはその少女時代を象徴的に照らし出してくれるのです。
登場人物一人一人の心にそっと触れるような形で、本作は「孤独」や「不幸」といった普遍的テーマに立ち向かう作品のように思われました。
また随所に散りばめられた異空間のような明晰夢の描写は空恐ろしく、まるで読者を作品の中に手招くようでした。
そういうわけですから、とても立体感のある、そしてどこか懐かしい作品だと私は考えます。