自分が手にしたいと願っているそれには、果たして真の価値があるのか?
- ★★★ Excellent!!!
とある理由で、会社の出世コースを踏み外した男。田舎の工場の所長に左遷され、工員たちとも距離を置きながら孤独な日々を送る主人公は、安くて美味な料理を出すと評判の小さな料理屋へ足を向けます。最初は蔑み立ち寄らずにいたその店の料理の美味しさは、彼の冷えた心を一気に元気付けます。店を営む主は、色黒で痩せた前歯のない女。彼女との出会いで、彼の人生は大きく変わっていきます。
「何を救い、何に救われたいのか」。作品中で主人公が自分自身に問いかける、深く痛く突き刺さるフレーズです。自分の信じているもの、自分の支えとは何なのか。自分が手にしたいと願っているそれには果たして真の価値があるのか。挫折の痛みを噛み締めて初めて、彼は人生において何より大切な事に向き合い始めます。
どんな人も、それぞれの人生を必死に生きている。そうして悩み苦しんだ末に、本当に意味を感じる生き方に辿り着く喜び。人生の大切なメッセージを、等身大の登場人物たちが身をもって訴えかけてきます。ずしりと満ち足りた読後感に浸れる、大変味わい深い短編です。