蒔いた種は誰が喰らったか

静かに始まり、しかし燻るように燃え渦巻く物語でした。

歴史を知る方なら、冒頭で語られる「あの方」が誰で、「俺」が誰であるかをすぐに察するのでしょう。私は無知ゆえにそれを知らずに読み進めましたが――それでも、肌の裏が爛れるような感覚がありました。

語りは抑制され、理知的で、整然としている。それだけに、淡々と剥いだ皮のように折り重なっていく怒りと、静かに膨れ上がる熱が、かえって切実に迫ってきます。

じっとりとした汗の感覚、赤い烏の幻影。いずれも象徴として深く刻まれ、読後には確かに喉の奥に何かが残る。その積み重ねの末に置かれた、最期の決断――あの瞬間、すべての比喩が報いとなって悪果を結びます。

「信頼」の名を借りた従属。「忠義」の名を借りた搾取。

自らが撒いた種を、赤い烏が啄み食い荒らしていく――そのイメージがただ、文字を追う目の奥に焼きついたまま、名付け得ぬものとして残るのです。

歴史を知らずとも、物語の魂に撃たれる。 これは、そういう作品でした。

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