痛みを知るあなたに舞い降る、ひとひらの祝福。
- ★★★ Excellent!!!
たぶん、忘れることのできない物語です。
終盤、正直に言って、読むことに勇気を要しました。
とろけるような甘さと、毛布に包まれるような温かさ。
穿つような痛みと、肌を透くような冷たさ。
そのどちらもが、どこまでも誠実に、息づかいすら感じられるほど生々しく、そこにある。
もはや「精緻」や「描写」といった言葉がそぐわないほどに。
だからこそ、現実以上に温かく、そして痛みを覚えました。
本作において「恋愛」は、決して華やかな主題ではありません。
人の内に潜む、傷や孤独、記憶を浮かび上がらせるための触媒として描かれているように見えます。
忘れること。
それは、逃避ではなく、
記憶と向き合い、赦し、そして祈るための選択なのだと、私は受け取りました。
そうやって、人はようやく、生きていける。
これは、痛みを知るすべての人のための物語です。
何を掬い取るかは、きっと人それぞれ。
でも読んだあと、静かに世界が変わって見えるかもしれません。
そしてきっと、身近なものが愛おしくてたまらなくなります。
食、文化、あるいは過去の、現在の、誰か。
私はそれらをとても、美しいと感じました。
この物語を書いたその呼吸の深さに、ただ頭を垂れます。
『笑って頂きたいんです、私』
作者様の別のご作品へのコメントでいただいた、この一言が忘れられません。
どうか、多くの人に、この物語が届きますように。