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改稿前原稿保管庫 第33話 疑った【薔薇食む】

 お父さんの葬式には、50人を超える参列者が訪れた。
 親戚は、5人だけ。残りは、会社の関係者ばかりだ。

 彼らの口から、聞かされた。
 横柄な父親が、社内では人格者だった事実を。

 同僚とは和気あいあいと語らい、常に愛想がいい。
 部下からは慕われ、育成能力では群を抜いていた。
 仲人をつとめた回数は、両手の数以上。
 社長からも覚えがいい。

 私は、脳の処理を停止した。

 同じ人物の話とは、信じられない。
 参列客たちは、異世界から来訪したのでは……。現実を直視できなかった。

 お母さんの顔は、終始にこやか。
 洗濯ノリで固めたみたいで、生きた心地がしなかった。

 弟の姿は、見ていない。
 お父さんは、|彼だけ《・・・》には甘かったから、当然だ。

 葬式終わりの、帰り道。
 ファミレスから出てきた、4人家族を目撃して、感傷にふける。

 お父さんが、家族想いの人間だったら、強気の私になっていたのだろうか。
 考えても、仕方がない。
 ぶつける先も、骨になってしまった。

 怒りは、湧かない。
 ひたすらに、手足が石のようだ。


「……はぁ」


 ふと、私の足が、止まる。
 最初、原因が思い当たらなかった。

 人の流れを見つめると、心が整理されていく。

 ああ。
 そっか。

 私は、ナギサちゃん不在の空間に、帰りたくないんだ。
 
 当てもなく、喪服で街を放浪する。
 買いたいものはない。
 食欲は、皆無。
 新鮮な空気を求める魚のように、ひたすら進む。

 視線を落としながら歩いていると、突如、爆音が響いた。
 振り向くと、看板の残骸が、散らばっている。

 私、数秒歩くのが遅かったら、死んでいたんだ……!

 心臓が、木魚のように、高鳴った。

 そうだ。
 街中は、安全じゃない。簡単に急死する。

 暴走者が追突したり、心臓発作が起きたり、毒物が撒かれるかもしれない。
 人間の死因なんて、ビルの数ほどある。
 じゃあ、なんで、私は生きてるの?

 わからない。
 ただ、願う。ナギサちゃんと一緒に、事切れたい。

 光を求めて、家電量販店に入る。
 テレビの前に佇むソファーに座り、画面を見つめる。

 コマーシャルを眺めていると、番組が切り替わった。
 映ったのは、目に馴染んだ顔。


「ナギサちゃん……」


 特集だ。
 病院でリハビリする姿。
 映像のお嬢様は、幼く見える。
 記憶喪失のせいで、精神年齢は小学4年生だ。


「私を、知らないんだよね……」


 画面を、撫でる。
 彼女の肌とは、まるで違う。ナギサちゃんの肌は冷たいけど、無機質ではない。

 画面内の兎本ナギサは、20人以上のボランティアとスタッフに囲まれている。
 ふたりっきりより、幸せそう。

 このままで、いいのかな?

 胸が痛み、頭皮がかゆくなる。

 もう、考えたくない。
 でも、脳は勝手に動く。

 力の限り、自分の頭を殴る。
 脳が揺れ、吐き気が湧き上がった。

 ナギサちゃんの寝姿が、アップで映っている。
 口の動きが目に入り、気づく。


「……え?」


 最初は、勘違いだと疑った。
 しかし、私はずっと、一緒に暮らしていたんだ。
 ナギサちゃんに対しては、自信がある。

 確信に変わり、叫ぶ。

 
——めぐみさん。


 彼女が寝言で、呟いていた。

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