鳥海恵巳は、兎本ナギサと一緒にいて、いいの?
何度も自問自答し、熟考してきた。
答えは、未解明。
私の小さい頭じゃ、絶対に導けない難問だ。
ナギサちゃんの解答が、必要だ。
肯定でも、否定でも、受け入れられる。
彼女は、私の潤いそのものなんだから。
「……ここに、いるんだよね」
目の前には、白く、無機質な建造物。
看板には総合病院の4文字が刻まれている。
自然と、小鼻が膨らんだ。
今のお嬢様に、プライバシーはない。
彼女の病室では、常に人が出入りしている。
毎日、8時間の配信。
インタビューや撮影も、ひっきりなしだ。
見舞客に扮して、病棟に侵入する。
薄暗い廊下を通ると、人通りが増えていった。
VIPな、個室。
ナギサちゃんママの猫なで声が漏れ聞こえた。
通勤時のオフィス街ぐらい人が多くて、近づけない。
「……あぁ」
姿が見えなくても、肌で感じ取る。
ナギサちゃんがいる。たった数メートル先に。
どうしよう。
会いたい。
抱きしめたい。
傷つけたい。
絞めたい。
刺したい。
食べたい。
沈めたい。
感覚器官のすべてが、ナギサちゃんを思い出す。
吐息の、くすぐったさ。
ふとももの、ぬくもり。
耳たぶの、やわらかさ。
瞼の裏に、鮮明に蘇る。
ナギサちゃんとの、ふれあい。
私の胸も頭も、青薔薇を欲している。
「でも、まだ……だよね」
今、連れ出すのは不可能だ。
準備が、必要。
確実に成功させるための、備えが。
「待っててね。一緒に死ぬまで」
大丈夫。
時期が来れば、私たちは、一緒になれる。
出会った時からずっと、運命は固定されているの。
「ねえ、ママ。お花摘みに行っていいですか?」
ナギサちゃんの声が、聞こえた。
話し方が幼い。
今の彼女は、小学校中学年ほどだ。
あと何日で、赤ちゃんになるのかな。
想像するだけで、背筋が震えた。
「ふぅ。大変ですね」
間に映る、歩く姿。
点滴棒につかまりながら、健気にトイレへと向かっている。
「……ははっ」
口が勝手に、笑ってしまった。
「誰……ですか?」
視線が合い、お嬢様が、近づいてくる。
自分の心臓から、音が聞こえた。
ドラムのように、低い鼓動が。
私は、走った。
ナギサちゃんからの逃走じゃない。
暴走する自分を、抑えるためだ。
家に帰ると、20本の青薔薇を、愛でる。
全く枯れない、記憶の花。
きっと、神様は私を見ている。
どうせ、説教臭い父親は死んだ。
お母さんや弟も、気にしない。
死んで責任をとるんだから、自由にやろう。
ナギサちゃんのすべてを、奪いたい。
そうそう。
文化祭で演じた、吸血鬼みたいにね。