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改稿前原稿保管庫 第34話 侵入した【薔薇食む】

 鳥海恵巳は、兎本ナギサと一緒にいて、いいの?

 何度も自問自答し、熟考してきた。
 答えは、未解明。
 
 私の小さい頭じゃ、絶対に導けない難問だ。

 ナギサちゃんの解答が、必要だ。
 肯定でも、否定でも、受け入れられる。
 彼女は、私の潤いそのものなんだから。


「……ここに、いるんだよね」


 目の前には、白く、無機質な建造物。
 看板には総合病院の4文字が刻まれている。

 自然と、小鼻が膨らんだ。

 今のお嬢様に、プライバシーはない。
 彼女の病室では、常に人が出入りしている。
 毎日、8時間の配信。
 インタビューや撮影も、ひっきりなしだ。

 見舞客に扮して、病棟に侵入する。
 薄暗い廊下を通ると、人通りが増えていった。

 VIPな、個室。
 ナギサちゃんママの猫なで声が漏れ聞こえた。
 通勤時のオフィス街ぐらい人が多くて、近づけない。


「……あぁ」


 姿が見えなくても、肌で感じ取る。
 ナギサちゃんがいる。たった数メートル先に。

 どうしよう。

 会いたい。
 抱きしめたい。
 傷つけたい。
 絞めたい。
 刺したい。
 食べたい。
 沈めたい。

 感覚器官のすべてが、ナギサちゃんを思い出す。
 吐息の、くすぐったさ。
 ふとももの、ぬくもり。
 耳たぶの、やわらかさ。

 瞼の裏に、鮮明に蘇る。
 ナギサちゃんとの、ふれあい。
 
 私の胸も頭も、青薔薇を欲している。


「でも、まだ……だよね」


 今、連れ出すのは不可能だ。
 準備が、必要。
 確実に成功させるための、備えが。


「待っててね。一緒に死ぬまで」


 大丈夫。
 時期が来れば、私たちは、一緒になれる。
 出会った時からずっと、運命は固定されているの。


「ねえ、ママ。お花摘みに行っていいですか?」


 ナギサちゃんの声が、聞こえた。
 話し方が幼い。
 今の彼女は、小学校中学年ほどだ。

 あと何日で、赤ちゃんになるのかな。
 想像するだけで、背筋が震えた。


「ふぅ。大変ですね」


 間に映る、歩く姿。
 点滴棒につかまりながら、健気にトイレへと向かっている。


「……ははっ」


 口が勝手に、笑ってしまった。


「誰……ですか?」


 視線が合い、お嬢様が、近づいてくる。

 自分の心臓から、音が聞こえた。
 ドラムのように、低い鼓動が。

 私は、走った。
 ナギサちゃんからの逃走じゃない。
 暴走する自分を、抑えるためだ。

 家に帰ると、20本の青薔薇を、愛でる。
 全く枯れない、記憶の花。

 きっと、神様は私を見ている。

 どうせ、説教臭い父親は死んだ。
 お母さんや弟も、気にしない。

 死んで責任をとるんだから、自由にやろう。
 
 ナギサちゃんのすべてを、奪いたい。

 そうそう。
 文化祭で演じた、吸血鬼みたいにね。

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