舞台の直後。ナギサちゃんは、病院に搬送された。
医者の淡々とした口調が、耳に残っている。
青薔薇病の、急激な進行。原因は不明。
「このままでは、あと1年もつかどうか、か……」
目を開けると、無機質な天井。
飛び降りのケガは、さらに悪化している。私も病室に押し込められたのだ。
「私のせい、なのかな……」
「あ、恵巳さーん」
耳に馴染んだ声が聞こえたような……。
ありえない。
彼女は今、隣の病棟にいるはずだ。
「ちょっと。無視しないでください」
顔が視界に入ってきて、目を見開く。
「え、なんで、ナギサちゃん……」
「寝ているだけは暇なので、来ちゃいました」
驚くあまり、せき込む。
「病室から出てきたの?」
「治療法なんてありませんし、どうせ検査入院ですから」
「そうかも、だけど」
「余命が縮んだんですから、離れる暇はありませんよ」
「でも、安静にしておいたほうが……」
「恵巳さんが、|それ《・・》をいいますか?」
圧が、怖い。
文化祭の無茶は、やりすぎたかな。
「看護師さんに怒られても、知らないよ」
「ふふふ。ちょっと楽しくなってきましたね」
「悪い子になっちゃって……」
「恵巳さんのおかげです」
肉の減った体が、ベッドに割り込んできた。
「はぁ。あったかいです」
「ナギサちゃんは冷たいね」
「この体、ちょっとずつ弱ってるんですねー」
「他人事みたい」
「実感がないからですかね。まだピンと来てないんです」
「ごめんね。ナギサちゃん……」
「謝らないでください。私は嬉しいんですよ」
視線を上げると、お嬢様の顔が、つぼみのように笑っていた。
「命を削るのって、生きてる感じがしますよね」
「わかる、けど」
「全部、あたしが決めたことなんです。だから、恵巳さんは気にしないでください」
鉄のように冷たい指が、私の手首に触れた。
カッターの傷痕が、ヒリつく。
「ねえ、ナギサちゃん……」
私たち、一緒にいて、いいのかな。言いかけて、喉が詰まった。
答えは、わかりきっている。
ナギサちゃんは、狂うほど、優しい。
それなのに、結局、声に出せなかった。
「どうしたんですか?」
「ううん。落ち着くなー、って」
「ふふふ。もっと近づいていいですか?」
「……うん」
自分の気持ちが、みつからなかった。
ナギサちゃんと一緒に、死にたい。
でも、不安が押し寄せて、脳が重くなる。
自分のことは考えたくないって、割り切れたらいいのに……。
答えが出ないまま、退院した。
クリスマス。
冬休み。
年越し。
雪の中にふたりで埋まったり、スキーでわざと遭難したり、お互いの体に星座を刻んだり、楽しんだ。
目まぐるしく、時が過ぎていく。
ナギサちゃんの余命が、減る。
3学期で、ツンツンくんは高校を辞めた。
演技で食べていくと宣言。劇団で住み込み修行すると聞いた。
進級時、担任が退職。家庭の事情とだけ、説明された。
始業式。
新しい先生の顔を見て、私の鼓動は、止まった。
「みなさん、はじめまして。|明本《あけもと》 |志緒里《しおり》って言います。気軽に志緒里ちゃんって呼んでね」
似ていた。
ナギサちゃんに、目元がそっくり。
いや、|それだけ《・・・・》じゃない。
「おばさん!?」
驚愕に満ちた、ナギサちゃんの声。
駆け寄る明本志緒里の姿から、目を離せない。
「やっぱりナギサちゃんだった! どうしてこの学校に? 月季女学院に通ってるんじゃなかったっけ?」
「あ、えっと、その……。色々あったので」
「そうなの? まあ、いいわ。元気そうでよかったー」
まぶたが、うごかない。
呼吸が、浅くなる。
頭の中で、フラッシュバックしていく。
昔の、高校時代。
近づく。迫ってくる。
背筋が凍るほど、何も変わっていない、過去が。
「久しぶり。恵巳ちゃん」
「なんで……?」
「また会えて嬉しいわ。先生として、よろしくね」
ひまわりのような笑顔を見るだけで、手足の感覚が消え、尿意が|沸《わ》き立つ。
明本志緒里。
新しい担任で、ナギサちゃんのおばさん。
そして、高校時代、私が好きだった人。
【後書き】
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
また、いつも♡応援やコメント、レビューもありがとうございます!
連載の励みになってます!!!
次回から新章突入。
恵巳とナギサの結末が気になる人は、☆評価やレビューをして頂けると、めちゃくちゃ嬉しいです!