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改稿前原稿保管庫 第22話 来た【薔薇食む】

 舞台の直後。ナギサちゃんは、病院に搬送された。

 医者の淡々とした口調が、耳に残っている。
 青薔薇病の、急激な進行。原因は不明。


「このままでは、あと1年もつかどうか、か……」

 
 目を開けると、無機質な天井。
 飛び降りのケガは、さらに悪化している。私も病室に押し込められたのだ。

 
「私のせい、なのかな……」
「あ、恵巳さーん」


 耳に馴染んだ声が聞こえたような……。
 ありえない。
 彼女は今、隣の病棟にいるはずだ。 
 

「ちょっと。無視しないでください」


 顔が視界に入ってきて、目を見開く。


「え、なんで、ナギサちゃん……」
「寝ているだけは暇なので、来ちゃいました」


 驚くあまり、せき込む。


「病室から出てきたの?」
「治療法なんてありませんし、どうせ検査入院ですから」
「そうかも、だけど」
「余命が縮んだんですから、離れる暇はありませんよ」
「でも、安静にしておいたほうが……」
「恵巳さんが、|それ《・・》をいいますか?」


 圧が、怖い。
 文化祭の無茶は、やりすぎたかな。


「看護師さんに怒られても、知らないよ」
「ふふふ。ちょっと楽しくなってきましたね」
「悪い子になっちゃって……」
「恵巳さんのおかげです」


 肉の減った体が、ベッドに割り込んできた。


「はぁ。あったかいです」
「ナギサちゃんは冷たいね」
「この体、ちょっとずつ弱ってるんですねー」
「他人事みたい」
「実感がないからですかね。まだピンと来てないんです」
「ごめんね。ナギサちゃん……」
「謝らないでください。私は嬉しいんですよ」


 視線を上げると、お嬢様の顔が、つぼみのように笑っていた。


「命を削るのって、生きてる感じがしますよね」
「わかる、けど」
「全部、あたしが決めたことなんです。だから、恵巳さんは気にしないでください」


 鉄のように冷たい指が、私の手首に触れた。
 カッターの傷痕が、ヒリつく。


「ねえ、ナギサちゃん……」


 私たち、一緒にいて、いいのかな。言いかけて、喉が詰まった。
 答えは、わかりきっている。
 ナギサちゃんは、狂うほど、優しい。

 それなのに、結局、声に出せなかった。


「どうしたんですか?」
「ううん。落ち着くなー、って」
「ふふふ。もっと近づいていいですか?」
「……うん」

 
 自分の気持ちが、みつからなかった。
 ナギサちゃんと一緒に、死にたい。
 でも、不安が押し寄せて、脳が重くなる。

 自分のことは考えたくないって、割り切れたらいいのに……。

 答えが出ないまま、退院した。

 クリスマス。
 冬休み。
 年越し。

 雪の中にふたりで埋まったり、スキーでわざと遭難したり、お互いの体に星座を刻んだり、楽しんだ。

 目まぐるしく、時が過ぎていく。
 ナギサちゃんの余命が、減る。
 
 3学期で、ツンツンくんは高校を辞めた。
 演技で食べていくと宣言。劇団で住み込み修行すると聞いた。

 進級時、担任が退職。家庭の事情とだけ、説明された。

 始業式。
 新しい先生の顔を見て、私の鼓動は、止まった。


「みなさん、はじめまして。|明本《あけもと》 |志緒里《しおり》って言います。気軽に志緒里ちゃんって呼んでね」


 似ていた。
 ナギサちゃんに、目元がそっくり。

 いや、|それだけ《・・・・》じゃない。


「おばさん!?」


 驚愕に満ちた、ナギサちゃんの声。
 駆け寄る明本志緒里の姿から、目を離せない。


「やっぱりナギサちゃんだった! どうしてこの学校に? 月季女学院に通ってるんじゃなかったっけ?」
「あ、えっと、その……。色々あったので」
「そうなの? まあ、いいわ。元気そうでよかったー」


 まぶたが、うごかない。
 呼吸が、浅くなる。
 頭の中で、フラッシュバックしていく。

 昔の、高校時代。

 近づく。迫ってくる。
 背筋が凍るほど、何も変わっていない、過去が。


「久しぶり。恵巳ちゃん」
「なんで……?」
「また会えて嬉しいわ。先生として、よろしくね」


 ひまわりのような笑顔を見るだけで、手足の感覚が消え、尿意が|沸《わ》き立つ。
 

 明本志緒里。

 新しい担任で、ナギサちゃんのおばさん。

 そして、高校時代、私が好きだった人。






【後書き】

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
また、いつも♡応援やコメント、レビューもありがとうございます!

連載の励みになってます!!!

次回から新章突入。
恵巳とナギサの結末が気になる人は、☆評価やレビューをして頂けると、めちゃくちゃ嬉しいです!

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