君は、えっちな衣装の女の子は好きだろうか?
俺は好きだ。
俺は、えっちな衣装の女の子が大好きだ。
死んで神様の前にふわふわ浮かんだ時、これはチャンスだと思った。
転生先にはファンタジー世界の女の子を希望。
ポイント割り振り制の特典をすべて可愛くなることにつぎ込んだ。
全ては、異世界にえっちな衣装を流行らせるため。
俺は異世界で(えっちな)ファッションリーダーになる!
心に決めて転生して──物心ついたのがおそらく二歳頃。
俺は、スラムの片隅で浮浪児をしていた。
◇ ◇ ◇
前世の記憶があると言っても二歳では普通の子供と大差ない。
認識能力も思考能力も十分育っておらず、記憶を有効活用できないからだ。
その辺りを補助する転生特典もあったが俺は無視した。
スラム生まれになったのも、親や家柄にポイントを振らなかったから。
「あうー(まさか二歳でスラムに放り出されるとは)」
右を見ても左を見てもどうしていいかさっぱりわからない。
親はいない。
物心つく前のことなので本当に曖昧だが、病に苦しむ痩せた娘の姿をぼんやりと覚えている。
路地裏に敷いた薄い絨毯の上で客を取る最底辺の娼婦が感染症で死んだ、といったところか。
「うあー(過酷すぎだろファンタジー世界)」
いや、地球だって完全にそういうところがなくなったわけではない。
俺の住んでいた国が恵まれていただけの話か。
後悔するのを止めた俺はこれからどうするべきかを考える。
論理的思考ができる歳じゃないので前世の記憶をぼんやり巡らせるのがせいぜいだが。
食事。水。衛生環境。
人が最低限生きていくには衣・食・住が必要だ。
ある程度大きくなってしまえばぼろきれに路上暮らしでも死にはしないかもだが。
せめて金か食べ物。
──その時、俺の脳裏に母の姿が浮かんだ。
目の前を人が通り過ぎるたびに口にする同じ言葉。
時折、立ち止まった奴がきらきらしたものを手渡す。
なるほどこれだ! と笑顔になって、
「ねえ、あたしを買わない?」
しっかりしていない足取りで歩いては、目についた人間に片っ端から言って回った。
後から思い返しては「馬鹿か俺は!」と死にたくなる黒歴史の完成である。
当然、まともに相手してくれる人なんていなかった。
スラムにいるのは他に行くところのないはぐれ者か、俺みたいに親のいない孤児だ。
みんな生活に余裕なんてない。
年頃なら買おうという奴もいただろうが、舌足らずな二歳児では「よーし悪戯しちゃうぞー」などという者はさすがにおらず。
大抵は気味悪がられて逃げられるか、罵声を浴びせられて殴られるか。
言語の蓄積の少ない俺にはその罵声すらはっきりと意味がわからない。
それでも、たまに憐れんで食べ物や水を恵んでくれる人がいて。
成功体験を得た俺は来る日も来る日も「あたしを買わない?」と言い続けた。
完全に「ごはんください」のノリだ(※黒歴史)。
そんなある日。
「ねえ、あたしを買わない?」
「あん?」
俺は、髭を生やした目つきの悪い中年男に声をかけて。
振り返ったそいつに、品定めをするように見下ろされた。
「馬鹿。お前が売り物になるんだよ」
人買いだった。
◇ ◇ ◇
可愛いだけじゃ世の中渡っていけなかったかー。
大人に捕まったらどうしようもない俺は呑気にそんなことを思った。
人買いの家に運ばれた俺は裸にされて髪と身体を洗われて、
「ん? なんだこいつ、妙に肌が綺麗だな」
彼の言葉も後から思い返してみてようやく意味がわかったので、その時はなんのことかわからなかったが。
確かに俺の肌は衛生的にも栄養的にも劣悪な環境にありながらすべすべで白かった。
何故か?
俺がポイントをすべて「可愛くなること」につぎ込んだからだ。
病気にはめったにかからないし、やせ細っても肌質は良い状態で保たれる。
傷も人の数倍の速さで治る。
可愛さを維持するための副次的な効果が人知れず俺を守っていたのだ。
人買いはにやりと笑って、
「これなら、奴隷商人に渡さず直接娼館に売り払うか」
例えるなら人買いは猟師で奴隷商人は肉屋だ。
人買いはたいてい、調達した『商品』を奴隷商人に売って金に換える。
奴隷商人は買った奴隷をより高い値段で売って金を稼ぐ。
だけど、人買い自身にほかの伝手があれば直で売られることもある。
俺は数日で、同じ街にある娼館に売り払われた。
娼館は要するに風俗店だ。
娼婦は基本的に住み込みで、場合によっては幼少期から育てられることもある。
後は下働きとして子供を使うことも。
俺は肌艶が良いということで娼婦に育てるために買われた。
「いいかい? 美人に育ってたくさん客を取っておくれよ?」
すると、屋根の下で暮らせるようになり、定期的に湯あみができるようになり、三食食べられるようになった。
最低限健康ならいい奴隷と違って娼婦は身体を売るのだから、ある程度良くしてもらえる。
やっぱ可愛いって得だわー。
俺は手のひらを返した。
◇ ◇ ◇
娼館に買われて飢える心配はなくなったが、もちろん苦労もあった。
夜の仕事なので生活リズムが逆転している。
昼間に騒ぐと娼婦のお姉様方にめちゃくちゃ怒られるし、仕事中に騒ぐとおかみさんにまでめちゃくちゃ怒られる。
香水や香、たばこのにおいがきついし、将来に向けて小さいうちから言葉を教え込まれる。
母親の食い扶持を食いつぶしていただけの俺にはなかなかにハード。
世話を任された娼館の従業員──下働きや用心棒などにしてみたら小さすぎる子供なんて面倒臭いだけ。
おかみさんが怒るので殴られたり蹴られたりはしなかったものの、文句を言われたり食事が遅れたりはよくあった。
一方で、娼婦のお姉様方は意外と優しかった。
「ね、こっちにいらっしゃい。飴をあげるから」
「本当に綺麗な肌ね。羨ましいわ」
避妊や堕胎の影響で子供を産めなくなった娼婦もいる。
俺が幼すぎるせいで競争相手になる心配もしなくていい、おまけに普段の世話は従業員に任せられるので純粋に子供を可愛がれるのだ。
まあ、お姉様方こそ「子供にはきついにおい」の原因なんだが。
娼館の世話になったおかげで、俺はどうにか無事に成長した。
正確な歳がわからないので大体だが、娼館に来てから三年程度──五歳か六歳の頃には認識能力もだいぶはっきりして、前世の記憶もだいぶ引き出せるようになった。
しつこく教えられたおかげで言葉もだいぶ意味がわかるようになった。
「悪くないんじゃないかしら。娼館での生活」
少なくとも路上生活よりはずっと安定している。
それに、ここにいるとえっちな衣装の女の子や女性が見られる!
娼婦は金をもらって男の相手をする仕事。
男を喜ばせるために薄手のドレスや露出の多い衣装、あるいは下着だけの格好が仕事着になる。
しかも一定以上の美人ぞろいなのだから、えっちだ。えっちに決まっている。
まあ、将来男の相手をさせられるのはアレだが。
異世界でえっちな衣装を広めるにあたって「自分が着る」のは大前提。
だからこそ美少女に転生したわけで、そういう意味では娼婦、大いにアリだ。
「ああ、早く大きくなって、いやらしい衣装で街を練り歩きたいわ……!」
お姉様方によると、街ではしたない格好をすると眉をひそめられるらしい。
ただし、娼婦ならある程度見過ごされる。
予想通り、最初からえっちな衣装満載の成人向けファンタジーではなかったが、まあそれはいい。
これから俺が広めていけばいいわけで。
早く来い、俺のえっちな衣装ライフ!
……と思っていたら、人生そんなにうまくいかなかった。
「ねえ、あんた。最近生意気なのよ」
「可愛いからっていい気になりすぎなんじゃないの?」
どうやら、可愛くなるのにポイントを振りすぎたらしい。
あれだけ優しかった娼婦のお姉様方が、まだ小学生未満の俺を「敵」とみなして攻撃し始めたのだ。
上手く行き始めたと思った俺の人生、いったいどうなる?
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ゆくゆくは冒険者になってえっちな服を着こなすけど憧れてくれる人はなかなか現れないなー、みたいなのを想定して書き始めてみましたが、この子、そっちに行くかなあこれ……?