「武器を、見せていただけますか?」
変な客が来やがった。
店のドアを開けて入ってきたのは背の高い男だった。
旅人らしい。
頭から足首までマントで覆っていて見えるのは青い目くらい。
手まで革の手袋で隠している。
オレは軽く睨みながら「金はあるのか?」と聞いた。
「多少でしたら」
本当かよ? と思いつつも、まあ客なら仕方ない。
「刀身はべたべた触るんじゃねえぞ」
「ありがとうございます」
変なことしようとしたらすぐぶん殴ってやる。
椅子からいつでも飛び降りられるようにしながらそいつを見守った。
すると、客は店の真ん中あたりに立って店内を見まわした。
──どうせ「しけた店だ」とでも思ってるんだろ。
うちは何百年と続いてきた歴史のある武器屋兼鍛冶屋だ。
だけどすっかり落ちぶれて、今じゃ売り物すら大して残っていない。
「失礼ですが、店主はどなたが?」
ほら来た。
オレみたいな奴が店主じゃ不満だって言いたいんだろ。
わかってるよ、オレだって『十三歳のガキ』に相手されたら「冗談だろ」って思う。
オレはふて腐れながら「そうだよ」と答えた。
「親父──先代はちょっと前に死んじまった」
「お母様は?」
「オレが小さい時に死んだ。だから、今は俺一人だ」
親父はオレにちゃんとした技術を教える前に逝っちまった。
それでもオレはこの店を潰したくない。
「なあ、同情するならなんか買ってってくれよ」
懇願すると、そいつは「困りましたね」と首を傾げた。
やっぱり金がないんじゃ。
「わたしは武器を買いに来たのではなくて──」
「邪魔をさせてもらおうか」
オレが「冷やかしなら帰れ」と言いたくなったその時。
店のドアがまた開いて、何人かの男たちが入ってきた。
顔を見るまでもなく、そいつらが誰かわかった。
くそ、また来やがったのかこいつら。
「冷やかしなら帰ってくれ」
俺は変な客に言うはずだった言葉をそいつらに向かって投げた。
◇ ◇ ◇
「おいおい、カイト。幼馴染に向かって失礼じゃないか」
「誰が幼馴染だ、うちに嫌がらせする武器屋のせがれが」
男たちの中心にいるのは十六歳のいけ好かない奴だ。
その周りには用心棒として腕っぷしのいい、要するにごろつき。
「……この方たちは?」
「通りをちょっと行ったところにある武器屋の息子だよ」
「おっと、こんな店に客がいたとはね」
「いいから帰れよ、ギル」
確かに昔は仲よく遊んだこともあったが。
今となっては敵でしかない男を睨みつける。
せっかくの客に「良ければうちの店に」とか言っていたそいつは振り返って、
「そうはいかないな。何度も言いたくはないんだが」
「なら帰れ」
「お前、誰の許可を得て営業しているんだ? 親父さんはもういないくせに」
「……許可証の有効期限はまだ切れてないだろ」
「そうだな。ああ、あと一か月くらいだったな、この店が潰れるまで!」
ぎゃはは、と笑う取り巻きども。
ギルもさも愉快そうに笑って、
「そうしたらうちで雇ってやろうか? 俺と親父に土下座したら考えてやるよ」
「っ、誰がお前たちなんかに……っ!」
「け、喧嘩はいけません!」
「なんだよ、お前に関係ないだろ!?」
ぶん殴ってやろうとしたら変な客に止められた。
ギルは「残念」と肩をすくめて、
「殴ってきたら殴り返してやったのに。全員で」
「あの、許可証の有効期限というのは?」
「この『鍛冶の街』では一年ごとに許可証が更新されるんだよ」
「年に一度行われる品評会に作品を出展して認められなければ許可証は下りない」
言いながら店を見渡すギル。
「カイト。お前、この一年でまともな作品造れたのか?」
「…………」
オレはぐっと唇を噛んだ。
オレが住むこの街は、国一番の鉱山街からも近く質の良い鉱石が入ってくる。
だから昔から鍛冶の技術が発展して、街中に鍛冶屋がある。
歴史ある武器屋でも、鍛冶師もいない店になんか客は来ない。
「お前一人でなにができる? あーあ、この店はお前の代で終わりだな!」
店内に響く笑い声に、俺はぐっと耐えた。
これならいっそタコ殴りにされたほうがマシだった。
こいつにも変な話を聞かせちまったな、と思って見上げると、
「それは好都合でした。わたし、実はここで雇っていただきたくて来たんです」
「は?」
そいつは楽しそうに目を輝かせていた。
ギルも取り巻きも目を点にして「正気か?」と呟く。
「その細腕で? わざわざこんな店で?」
言う通り、謎の客? 弟子入り志願? は背が高いわりに細身だ。
力と体力のいる鍛冶仕事に向いているように見えない。
なのに、そいつは口を覆っていた布をずらすとにっと笑って、
「つまり、品評会で作品が認められればいいんでしょう?」
自信満々に言ってのけた。
それがオレ──カイトと、変態鍛冶師メルフィとの最初の出会いだった。
◆ ◆ ◆
「あんた、本気かよ? うちで鍛冶師をしようなんて」
「ええ。実を言うとめぼしい店には断られまして……」
残っている店はここだけになってしまった。
だろうな、というジト目で見てくるカイト少年。
しかし『俺』はぐっと拳を握って、
「ですが、わたしは諦めたくありません! 金属への愛を証明するために!」
「は、愛?」
「愛です」
鍛冶師を目指すんだから当然だろう。
当然じゃない? そんな馬鹿な。
「素晴らしいではありませんか、金属。ナイフ、包丁、片手剣、両手剣、日本刀、斧に槍に鎧に盾にエトセトラ、もちろん武器防具以外も大好きですが、わたしとしてはやはり機能美を兼ね備えた武具類に特別な愛着が──」
「ちょっ、ちょっと待て、落ち着け!」
カイト少年が暴れだした駄犬を宥めるような調子で制止してきた。
「好きなのはわかったが、あんた、鍛冶の経験はあるのか?」
「ありません」
「よし出ていけ」
俺は店を追い出された。
「待って、待ってください! せめてこれ! このナイフだけでも見てください!」
「ああ!? どこで買ったものか知らねえが、そんなもん見てなんになるんだよ!?」
しょうがないのでどさくさに紛れて手持ちのナイフを置いてきた。
適当な酒場で一杯飲んでから、店に悠々と引き返す。
忘れ物を取りに来たと言えばもう一度来店する理由になる。
いい感じに時刻は夕暮れ。
店には客が一人もおらず、少年が一人カウンターに座っていた。
その手には抜身のナイフ。
俺は静かに彼に近づいていく。
すると。
「……なあ。これ、お前が作ったのか?」
俺は口の布を外すと微笑んで、
「鍛冶の経験はありませんが、武器を鍛えられないとは言ってませんよ」
「なにを、言ってるんだ」
「魔法です。わたしは『金属』の属性を持っていまして」
指をナイフの上で滑らせながら、
「これは既製品を丹念に、魔法で鍛えたものです」
彼の目を覗き込む。
「少しは興味を持っていただけましたか?」
「………い、一から鍛えた武器じゃなきゃ、品評会には出せないんだぞ!?」
「わかっています。ですからあなたは場所を、わたしは技術を。それでいかがでしょう?」
顔が真っ赤になっている。
ふ、ちょろい。
悪いな、思春期の男子がこういうのに弱いことはわかっているんだ。
運命の出会いっぽくていいだろう?
実際はかなり狙ったが、こっちにも後がない。
せっかくのチャンスは利用させてもらう。
「わたしはメルフィと言います。あなたは?」
既に知っていることを敢えて尋ねると、少年は「カイトだ」と答えて。
「まずは顔を見せろ。怪しい奴と商売の話はできない」
しっかりしている、親御さんの育て方が良かったか。
俺は「いいでしょう」と答えてマントをはだけ、フードを下ろした。
ポニーテールに結った銀髪が露わになる。
おまけに、ぴんと尖った俺の耳も。
「エルフ」
「はい、エルフです」
「女」
「はい、女です」
喉仏はない。
耳と顔を隠せば身長のおかげで男に見えるのはわかってやっている。
どうだ、美人のエルフお姉さんだぞ、たまらないだろー?
「これからよろしくお願いしますね、カイトさ──」
「出てけ」
「え?」
いまなんと?
「出てけ。エルフはまだいいとして、女を仕事場に入れられるか!」
「いや、いますごくいい雰囲気だったじゃないですか!」
俺はもう一回カイト少年に追い出された。
これが、俺と彼との最初の出会い。
これから一緒に無数の武器を作ることになる、まさに運命の出会いだった。