ブレンデルが亡くなった。去年はポリーニ、今年は彼。毎年、偉大なピアニストが亡くなっていくのをみるたびに心が折れそうになる。昔は、偉大なピアニストたちが逝去してもポリー二やアルゲリッチ、ブレンデルなどがその隙間を補充していってくれたのだが、最近はプラスマイナスが(世間的にはどうかしらないが)僕の中ではうまく均衡していない。
ブレンデルは最初から好きだったわけではなく、幾つかの演奏を聴いている内に抗しきれなくなったピアニストであるが、とりわけ彼のシューベルトは素敵で、訃報に接する前夜、ベッドの中で彼の弾く「さすらい人幻想曲」を聴いたばかりだった。
決してドラマティックではなく、穏やかに、一音ずつ確かめるように弾いていく音色に知性と誠実さが溢れる演奏である。僕はシューベルトという作曲家が、どこかいつも死と隣り合わせにいる作曲家のような気がして、それは「魔王」や「死と乙女」「白鳥の歌」などという死と関連する曲のせいでもあるのだけど、ブレンデルも「さすらい人幻想曲」のメロディと共にあの世への漂泊の旅にでたのではないかと信じている。
合掌。