タイトルは「勇者の決意」
今回、なかなか自分の物事に対する認識がよーく出てるなーと。
そういうわけで、限定ではなくしてます。
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歴代最強と呼ばれる勇者レモハブ。
たった一人で始めた旅は苦難の連続。死の騎士との一騎打ち、街を支配するゴーレムとの激闘など、幾多の試練を乗り越えねばならないものであった。
だが、その中で成長したレモハブはついに虹の橋を渡り魔王城へと足を踏み入れた。
「よし!」
レモハブは獣魔将軍を斬り伏せた。
致命傷ではないが、これで当分は戦えないだろう。残りの魔物は顔を見合わせ後退ると、獣魔将軍を担いで逃げ散っていく。
見事なまでの逃げっぷりに、少しばかり呆れてしまうぐらいだ。
「あとは魔王だけか、逃げられる前に見つけねば」
そう呟いたときだった、その場に何者かが現れたのは。
法衣のようなものを身につけた老人だが、その全身から醸し出される覇気は尋常なものではない。レモハブが思わず身構えてしまった程だ。
「貴様! 魔王クロレッツだな!」
「いかにも」
「自分から現れるとは、魔王にも矜持というものがあったか! ここで人と魔の戦いを終わりにさせて貰う!」
「そうだな、終わりだな。もちろん我ら魔族の負けだ。もう、殆ど戦力は残っていない。そういうわけでだ――少し話をしよう」
そう言うなりクロレッツは地面に座り込んだ。魔法の杖は遠くに放り出しているし、見る限りは特別な装備は身につけていない。
呆気にとられたレモハブだったが、それも一瞬。
直ぐに剣を構え直した。
「命乞いか? 時間稼ぎか? そんな手には乗らないぞ!」
「なら私が勝手に話すのみ。聞きたくなければ、好きに殺すが良い」
「…………」
レモハブは少しだけ迷いながら、ひとまず様子を窺うことにした。ただし、何かあればいつでも斬りつけられる体勢のままだ。
「話というのは、私が死んだ後のことだ。どうなると思う?」
「世界が平和になり、争いもなく人々が平和に暮らせる」
「……子供が思い描くような世界感については、いろいろ言いたい気分ではある。だが、私が言いたいこととは違うため置いておくとしよう」
「偉そうに言うな」
「魔王だからな」
座り込むクロレッツは軽く肩を竦めた。
そうしていると魔王と言うよりは、どこぞの貴族の隠居といった様子でもある。しかし、そんな姿に騙される気はない。
レモハブは気を引き締め剣を握りしめておく。
「どうなるかと言うのは、我ら魔族がどう動くかという意味だ。間違いなく、お前たち人間は、我ら魔族を皆殺しにしようと動くだろうな」
「そっちが始めた戦争だ、仕方ない」
「それも異論はあるが……まあいい。だが、我ら魔族も皆殺しにされるわけにはいかん。既に多くのものが、人間たちの中に紛れて暮らしている」
「へえ……そんな事を教えて良かったのか?」
レモハブは辛うじて戦慄を顔に出さずにすんだ。
重要な情報ではあった。だが、その対策は至難を極めるものだ。迂闊に話が広まれば疑心暗鬼になった人々が暴走し、罪のない人々が犠牲になりかねない。
「これからの話に必要なことだからな」
クロレッツが胡座をかいた。死を前にしたとは思えぬ、少し寛いだ態度だ。
その態度は自分を馬鹿にしていると感じたレモハブだったが、しかし何とか堪える。この様子であれば、まだ魔王から情報が引き出せるはず。それはこれから訪れる平和な世界に、必要なものである。
「その者たちは人々の間に紛れ、お前を付け狙うだろう」
「……なんだ、そんなことか」
あまりの馬鹿馬鹿しさにレモハブは嘲笑さえした。その程度は覚悟の上だ。自分が見くびられていたことが少しだけ悔しい。
「言いたい事はそれだけか? なら、もう終わりだな。その程度は脅しにもならないぞ」
「そうかな? お前を付け狙う者たちは、これから先ずっとお前を付け狙い、そして賞賛し続ける」
「往生際が悪いな――? いま何と」
「お前を付け狙う者たちは、これから先ずっとお前を付け狙う」
「その後だ」
「お前を賞賛し続ける」
「…………」
レモハブは上を向いて唸り、下を向いて唸り、そして首を傾げた。
「それが?」
「お前の行く先々に駆けつけ、徹底的に祭り上げ賞賛し続ける」
「だから! それがどうした!」
「分からんのか……」
「意味が分からん。命乞いなら、もっとマシな台詞を吐け!」
怒りの声が辺りに響きわたった。
ふと辺りを見れば、周りには何体かの魔物の姿がある。おそるおそると顔を出しているだけで、どちらかと言えば非戦闘員のような連中ばかりだ。
クロレッツが手で合図をした。
攻撃が来るかと身構えるレモハブだったが、現れたのは小さな魔物だ。
「?」
しかも両手でトレイを持っているが、そこには湯気たつコップと食べ物らしきものがあった。まだ子供の魔族らしく、恐る恐るといった様子で歩く姿は完全に腰が引けている。
そして持ってきたものを置くと大慌てで逃げて行く。
途中で転んで慌てて立ち上がり、半泣き状態で去って行った。
「…………」
なんとも気の抜ける光景だ。
我に返ったレモハブは改めてクロレッツを見やった。
「で?」
「ああ、話の続きだな」
クロレッツは茶菓子を無造作に掴んで口に運ぶ。そうすると、どこにでも居そうな隠居老人といった様子ですらある。
「お前が歩くだけで褒め称える。何かをすれば感心し拍手喝采をするだろう」
「うん、まあ。今でもよくあるぞ」
「お前が些細な事を言っても大袈裟に感心、ちょっとした事をしても大袈裟に感動さえしてみせる」
「……そういう奴は今だっているさ」
「鬱陶しいだろう?」
「確かにな。まあ、我慢するさ」
そういった連中を思いだすと、レモハブはうんざりした。
何かをすると『流石は勇者様です』、『レモハブ殿は最高です』などといった言葉に続け、歯の浮くようなことばかり言う連中がいるのである。
「我慢か……我慢して、それに慣れたらどうなる?」
「なに?」
「毎日毎日何年も、そうやって褒め称えられ続ける日々に浸される。それが当然となって、称賛無しでは不満を感じるようになっているだろう」
「…………」
「その時のお前の自意識は肥大し、尊大で常に偉ぶり、他者に対し上から目線で接する存在になっているだろう」
クロレッツの言葉に、レモハブは不安を感じだした。脳裏に浮かぶのは、これまで見てきた醜い貴族共と同じになった自分の姿だ。
「おい馬鹿、止めろ」
「それだけではないぞ、我ら魔族はある日突然それを終わらせる」
「終わらせる?」
「それは十年後か二十年後か。だが何にせよ、もはや勇者の活躍など身近に感じる者も居なくなった頃だろうて」
「…………」
ようやく。
ようやくレモハブは、魔族の恐ろしい企みに気付いた。
この魔族どもは自分を自意識を異常なまでに肥大化させた化け物に育てあげ、更にある日突然に放り出すのだ。まさに尊厳破壊だ。そして勇者としての名声も名誉も何もかも打ち壊すのだ、それも自分自身の手で。
「…………」
「さらに」
「まだあるのかよ!?」
「お前の居ない場所でも、魔族の皆は『勇者レモハブ様を見習うのです』、『勇者レモハブ様のようになるのです』、『勇者レモハブ様なら、こうするに違いありません』などと、人間共に説いて回るだろう。様々な場面でな」
それもまた最悪だ。
その説いて回る熱心な信者にこそ、言われた者は鬱陶しく感じるだろう。だが同時に名前を出された自分に対する心証も悪くなること間違いなしだ。
しかもだ。
そこに、褒め殺しをされている自分が登場すればどうなるか。
「…………」
「そういうわけだ。これで私の話は終わりだ、さあ首を持っていけ」
「こっ、こいつ。いけしゃあしゃあと」
「どうした? ああ、ちなみに我ら魔族は和睦を結ぶ用意はあるぞ。もちろん、和睦など人間は嫌がるだろうがな。しかし勇者が仲立ちであれば、誰も嫌とは言わぬだろうなぁ」
そしてレモハブは決心したのであった。
伝説の勇者レモハブ。人と魔に和をもって貴しと説き、武によってではなく手を取り合うことで戦いを終わらせた高潔で思慮深い勇者である。常に謙虚で控えめで、己の功績に驕ることもなく、常に誰に対しても丁寧な誠実清廉な人物であったという。