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お礼のSS48-3  お題は「幼龍」(限定なし)

5話中3ということで。

タイトルは「空から何かがやって来た」ぐらい。

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 目的の場所は街を出た平原の端。
 途中の見通しは良いとはいうものの、小型モンスターが生息しているので気は抜けない。しかも緩い丘を上がって下がって、他に頼れる者の居ない地を一人で進んで行くのだ。
 踏み固めただけの薄い土色をした道を踏み締め、両脇の薄い緑に覆われた草原に目を配る。見通しの良い範囲に、危険な存在は見当たらなかった。草食系モンスターがゆったり歩くだけだ。
 ふと、草食系モンスターを狩ってみようかという気がした。それぐらいなら、自分一人でもなんとかなる。だが直ぐに頭を振って、その考えを追いやった。
「止めとこ」
 あれでなかなか手強くもあるし、下手に戦闘をして肉食系モンスターに気付かれては面倒になる。今日の目的は果実採取なのだから、余計な事はしない方がいい。
 そろそろ果樹のある場所に近い。
 見覚えのある岩を見つけ、そこから道を外れ草地に足を踏み入れる。
 やがて踝ほどの高さだった草の丈が、膝下ぐらいにまでなって来たころ、低木の集まりに到着した。
 こんもりとした濃緑をした葉の間に、赤い小さな実が幾つもある。
「よっし! 依頼達成だな」
 逃げ出した故郷にもあったパープルベリーの木で、この実は少し酸っぱいが腹の足しにはなる。子供の頃から、それで飢えをしのいできたが、実は栄養豊富だと知ったのは最近だ。
 一粒つまんで口に放り込む。
 かなり酸っぱい。それが久しぶりのせいか、この木がとりわけそうなのか、その両方なのかは分からなかった。だが思わず首を竦めてしまうほど酸っぱいのは確かだ。
 ランクスは鼻歌気分で、パープルベリーを摘んで袋に収めた。
 これで今日の酒代は確保で、少し節約すれば宿にも泊まれるだろう。節約して金を貯めながら生きるべきか、それとも楽に日々を過ごすべきか。パープルベリーを摘みながら考え込む。
 だからなのだろう。
 周りへの警戒が疎かになって、忍び寄る気配に気付かなかった。

「なっ!」
 枝が揺れる音に我に返ると同時に、何かが飛び掛かって来た。藪の中から跳ね飛ばされ、草地の中に転がる。枝葉で顔を擦り肘を地面に打ちつけ、それでも瞬時に身を起こすが、何かがのし掛かってきた。同時に強い痛みを感じた。
 足に食い付き低い威嚇の唸りをあげるのは、緑の獣毛に覆われた四つ足の生物だ。
「ルーバー!? やっぱ来なけりゃよかったー!」
 草原付近に生息する肉食系モンスターだ。小型に分類されるが、不意を突いて獲物を襲い、しかも執拗に狙い続ける。他のモンスターを狩り気を抜いた瞬間に襲われ、何人もの冒険者が命を落としたとも聞く。
 まさに、その状況だ。
 がっちりと噛まれた右足から激しい痛みが伝わってくる。頭の芯までしびれ、焦りに加え呼吸が大きく乱れる。それでもランクスは剣を抜き、半ば殴りつけるようにして何度も叩き付けた。
 短い悲鳴と共に相手が離れ、その隙に立ち上がって身構える。だが、それだけで精一杯。足の痛みは焼けるようで、歯を噛みしめ首に力を入れ堪えるしかない。
「これは……逃げられそうにないな……。こなくそっ! こうなったらやってやるっ! 簡単に喰われてやるものか!」
 自らを叱咤するためにも声を張りあげる。
 ルーバーは怯んだように僅かに足を引きかけたが、やはり執念深い習性のとおり、猛然と地を蹴って躍りかかってきた。鋭く勢いのある動きだ。迫る牙に怯みながら、ランクスは身を沈め下から剣を振り上げた。
 殆ど反射的な攻撃だったが、確かな手応えがあって、ルーバーの腹部を斬っていた。鮮血と共に獣毛が散る。着地に失敗したルーバーは、辛うじて身を起こし再び向き直ってくる。低く唸りをあげているが、徐々に首を垂れていき、前足を折り、そのまま倒れた。
「やったか!? やったよな、よっし! やれば出来る!」
 足の焼けるような痛みを堪えつつ、勝利の喜びをあげ剣を突き上げた。

 だが直ぐに黙り込む。
 いつの間にか新たなルーバーが現れていたのだ。やはり低い唸りをあげ、ランクスを見つめている。
「……そりゃないって」
 ランクスは顔を引きつらせた。
 飛び掛かって来たルーバーを回避するが、倒れ込んだ挙げ句に剣を取り落としてしまう。それでも必死に助かる道を探そうと、四つん這いになって逃げた。背中に重みを感じ押し潰されそうになり、首筋に荒い息を感じ戦慄する。とっさに身体を捻って振り払おうとするが、相手は執拗だ。
 仰向けになった目の前に、牙のある口があって、生臭い息と共に涎が落ちてくる。
「くそっ! 喰われて堪るかよ!」
 左腕で牙を防ぎつつ、右手で地面をまさぐる。土を掴み何かを探す指先に、固い手触りがある。先程取り落とした剣の切っ先だと分かった。刃の部分だろうが構わず握りしめ、ルーバーの頭に思いきり突き立てた。
「やった……」
 力を失い痙攣するルーバーを押しのけ、しかしそこで力尽きたランクスは、仰向けになったまま動けない。身体は石のように重くなっていた。左腕と右足には噛み傷、右手も刃を掴んで傷を負っている。強い喉の渇きを感じ、水を飲みたいと思ったが、革の水袋に手をやる気力もない。
 ランクスは諦めて空を見上げた。
 疲れていた。
 心の底から疲れていた。
 身体的な疲れだけではなく、生きる事にも疲れきっていた。もうどうでも良かった。吸い込まれるように青く澄み切った空を見上げ、堂々巡りの思考に囚われている。
 ――どうしてこうなったのか。

 農家の次男として生まれ、兄のスペアとして飼い殺しのような日々。その兄に子が生まれた後は、ただの労働力。僅かな食事で死ぬまで家のために働かされる運命と分かって、逃げるように故郷を飛びだし必死に生きて来た。
 その結末がこれだ。
 自分はどこで間違えてしまったのか、それとも最初から駄目だったのか。一生懸命に頑張ったはずなのに、何も上手くいかず良くない事ばかり起こる。あのまま故郷で飼い殺しのまま生きていた方が良かったのだろうか。
 ――よく分からないな。
 目を閉じて痛みを堪える。
 周りに幾つかの唸り声が聞こえた。恐らく他のルーバーが現れたのだろう。一匹いれば近くに十匹はいると言われるのだから間違いない。唐突に訪れた終わりの時に、どこか自嘲めいた気持ちが込み上げてくる。
 朦朧としたまま考えていると、近づいて来る何か大きな鋭い音を聞いた。
 それは風が吹くような、風切り音のようなもので、どこかで聞いた覚えがある。何であったのか思い出そうとするのだが、考える事も億劫になっていく。
 意識が遠のく。。
 だから何か大きな影がよぎった事も、小型モンスターが逃げ出した事も、何もかも気付いていなかった。
「見つけました」
 殆ど暗黒になった意識に、何か優しい声が聞こえた気がした。

2件のコメント

  • ピンチに現れた恩返し龍。良かった。喋ることができるんですね。
  • ガウガウと言いながら身振り手振りのジェスチャーで意思疎通をはかるというのもアリかな
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