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お礼のSS48-5  お題は「幼龍」(限定なし)

5話中5ということでラスト!

タイトルは普通に「恩返し」ぐらい。
これが、へっぽこサラリーマンになったのだから不思議なもんです。

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 ガウガウと可愛い声で、白龍が大岩を持ち上げている。
 それを前に、余計な口出しをする度胸はランクスにはなかった。そうこうする内にも、クリュスタは岩や大岩を運んで無造作に積み上げていく。さらに蹴って倒して木を引きずって、辺りに並べた。
 クリュスタは人の姿に戻ると拍手して喜んで、出来映えに満足した様子で頷いた。
「今日の寝るところの完っ成っでーす!」
 真ん中に地面があって、周りを岩や木で囲われている。崩れてこないか心配になるが、しばらく観察しても小石一つ落ちて来ない。思ったよりも安全そうだ。仮に崩れたとしても、クリュスタが何とかするだろう。
 ランクスは覚悟を決め地面に座り込んだ。
 辺りは日が落ち、空には月が輝き星が瞬く。周りの即席壁があるため風はないが、良く晴れ渡っているせいで肌寒い。クリュスタは全く平気そうにしているが、ランクスは両腕で自分の身体を抱くようにして身を震わせた。
「お兄さん寒いですか。分かりました、焚き火を用意しましょうか」
「あっ、焚き火ぐらいは自分でやるよ。俺、火打ち石ぐらいは持ってるからさ」
「それには及びません」
 クリュスタは小さな枝を集めると、口から火を吐く。
 勢い良く燃える焚き火が誕生した。
 おかげで暖かい。暖かいが、しかし何とも言えない気分のランクスは、座り込んで食べ物を口にする。それはパープルベリーや、そこらで見つけた木の実だ。
 クリュスタも同じ物を美味しそうに食べているが、その仕草だけであれば小動物に見えた。しばらくランクスが見つめていると、物問いたげな顔で首を傾げてみせる。
「何でしょう?」
「ああ、なんだ。龍もそういうの食べるんだなと思って。てっきり肉食かと思った」
「お兄さんは失礼ですねー。ちゃんとお肉以外に果物や野菜も食べますよ」
「くっ、俺より健康的な食生活を心がけてやがる」
「それは駄目ですね。好き嫌いなく食べませんと」
 何だかありきたりの会話だ。
 故郷で暮らしていた時も、こんな会話ができる相手はいなかった。家族はもとより村人も、将来性のない農家の次男坊をまともに相手にするはずもない。
 街に出てからも同じで、知り合い程度に会話する相手はいたが、特別親しい相手もいなかった。あのサラサも酒場でお金を払っているからこそ話をしてくれるだけだろう。
 こうした会話をしてくれる相手に飢えていたのが事実だ。
 だから、嬉しかった。それは相手が真龍だという事を忘れるほどに。
「ところで、クリュスタはどうしてここへ? わざわざ落とした高級回復薬を届けに来てくれたんか?」
「それもありますけど。命の恩人のお兄さんに、お礼を言いに来ました」
「いやまあ、こっちも助けて貰った訳だ。お礼をいうのは俺の方だな」
「なるほど。では、二人で言い合いましょう。ありがとっ!」
「あっ、ああうん。こちらこそ、ありがとう」
 丁寧に御辞儀をするクリュスタに、ランクスも戸惑いながら頭を下げた。何とも奇妙な、調子を狂わされてしまう相手であった。これが龍とは思えない。しかも、人の姿をしてさえいればクリュスタは普通の女の子に見える。
 あの時に傷ついた龍を助けた事は、間違いでは無かったと思えてきた。
「ん……? そういや、なんであんな傷を負って倒れてたんだ? 龍なのに」
 たちまちクリュスタはきまり悪げに目を逸らし、頬を指で掻いた。
「えーと、それには深い理由がありまして」
「ほう?」
「私って真龍の中で一番若くって、まだ百歳かそこらなんです。でも他の真龍は寝てばっかりですし、山の中って暇なんですよ」
「まあ田舎は暇だからな」
 ランクスは娯楽のない自分の故郷を思い出し頷いた。
「だから、人間の街に遊びに行ったんですよね。ほら、物がいっぱいあって面白そうじゃないですか」
「で、龍の姿で近づいたら攻撃されたと」
「そうなんですよ。酷いと思いませんか?」
「思うか!」
 ちっとも深くない理由に、ランクスは思わず罵った。それから相手が真龍だと思い出し内心冷や汗ものだ。一般的に知られる龍はまさしく獣の如きだが、その上に君臨するとされる真龍で高い知性を持って強い魔法も行使する。まさに生ける伝説だ。
 ランクスは不安になった。
 焚き火の光を浴び、赤く染まるクリュスタの様子を窺う。
「あ……怒ったりしない?」
「どうしてです?」
「だって、俺って失礼な言葉使いだし」
「悪意は感じないので、気になりません。むしろ、そういう反応も楽しいじゃないですか」
 クリュスタは、ちょっとだけ偉そうに胸を張った。しかし直ぐに何かを思い出したように手を叩く。見ていて目まぐるしいぐらいの変化である。
「それでですね、助けてくれたお兄さんに恩返しをしたいと思います」
「恩返し!?」
「この誇りある真龍が助けて貰って、お礼を言うだけと思いましたか? さあ、私に出来ることがあれば言って下さい」
「金銀財宝ください!」
 ランクスは即答した。そこに一切の躊躇いはない。これまで苦労に苦労を重ねてきただけに、お金のありがたみを心の底から知っているのだ。綺麗事だけで人は生きていけない。
 しかしクリュスタは手を横に振った。
「ごめんね、私そういうの集めてないから」
「なんで!? 龍は金銀財宝を布団代わりにしてんだろ? そういう話を聞いたぞ」
「してませんよ、そういう変な風評被害は止めましょう。はっ!? もしかして、里に人間の侵入が止まないのは、それが原因?」
 間違いなくそれが原因に違いないが、今のランクスにはどうでもよかった。
「ああっ、俺はどうすればいい? せっかくのチャンス。この先の人生で、真龍が恩返しに何でもしてくれるって事はありえない」
「あのー? 何でもなんて言ってませんが」
「どうして俺は、こんな時に限って何も思いつかないんだ!?」
 真龍を使って金儲けをしようと思うのだが、良い考えが浮かばない。
「別に今じゃなくて構わないんで、ゆっくり考えてください。その間、私はお兄さんの傍に居て、人間の街を見学させて貰うとしますから」
 もしかするとクリュスタの真の目的はそれかもしれないと、ランクスは訝しんだ。仮に叶えられそうな望みを言ったとしても、何だかんだと同じ結論に持っていくつもりだったような気がする。
 それを問いただそうか迷っている内に、クリュスタは眠そうに欠伸をした。口元に手を当て、無造作に大きく口を開けている。
「眠い、もう寝ます」
 その姿が、ゆっくりと薄らいでいくと、入れ替わるように白い鱗の龍に変わった。白龍は欠伸をすると、出来上がった巣の中で丸まり、自分の尾に顎をのせ眠りだした。焚き火の揺らめく光に照らされた姿は、どこか神々しささえある。
 ランクスは静かな笑みを浮かべた。たとえ相手が巨大な龍であっても、こうして誰かと一緒に夜を過ごすのは初めてだったのだ。
 仰ぎ見た夜空はとても綺麗なもので、寝るが寝るまで考え事をしていた。

2件のコメント

  • >寝るが寝るまで
    寝るまで? 眠りにつくまで? 正解は?(クイズじゃありません)
    お蔵だししていただいてありがとうございました。最後のシーンも余韻があって素敵です。
  • 「寝るが寝るまで」は、なんかこう「寝る寸前まで」いった意味で耳にしてました。確かに調べると、辞書とか用語でも出てこない…。
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