「余白の声」第16話「測った距離」
秋定弦司
「導かぬ言葉と、軽蔑という最終値」
ええ、体調不良でございました。
理由はそれで十分でしょう。
人は常に、万全である必要などございませんから。
ある文章を拝見いたしました。
論旨は理解できます。
語り手は、到達点をすでに定め、その前提の上で言葉を積み上げておられる。
それ自体、誤りではございません。
ただし前提が固定された瞬間、言葉は選別を始めます。
穏やかな表現であっても、区切りは生まれる。
こちらと、向こう。
意図せずとも、上下の勾配は形成されるのです。
今どき、人が人とつながることは珍しくもありません。
それをひとつの箱に収めた時、語り手は無意識のうちに、自分の立ち位置を少しだけ高く設定してしまう。
思想を語る者が、いつの間にか人を集めてしまう現象は、決して稀ではございません。
導く意思がなくとも、言葉は集団を生み、集団はやがて、異論を遠ざけます。
断定は軽うございます。
軽いからこそ、よく飛び、よく刺さる。
私が距離を取ったのは、感情の問題ではございません。
必要であった――それだけのこと。
止める声の存在しない言葉は、やがて補足を増やし、説明を重ね、自己防衛という形に変質いたします。
距離を置くことは、拒絶ではございません。
整理であり、防御でございます。
誰かの経験を、普遍として受け入れる義務など、どこにもございません。
強く求めること自体は、否定いたしません。
しかし、行間は隠せない。
問いが生まれるのは、そこに必然があるからでございます。
独りよがりの危険は、誰の内にも潜んでおります――私の内にも、例外なく。
だからこそ私は、あえて役に立たぬ言葉を口にいたします。
導くためでも、集めるためでもございません。
崇められる場所にも、従わせる立場にも、興味はございませんので。
最後に、誤解なきよう申し上げておきましょう。
私は、侮ってはおりません。
嘲笑も、しておりません。
ただ――測った距離の結果として、静かに身を引いているだけでございます。
それ以上でも、以下でもございません。
ああ、測った距離の結果でございますか。
「軽蔑」という名の一言でございます。
「余白の声」第16話「測った距離」 秋定弦司 @RASCHACKROUGHNEX
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