死を願う妻へ贈る最後のリモート旅行。幸福と愛の定義を問う72時間の記録

「わたしを殺して」と願う、暗闇に閉じ込められた妻。「あなたを殺してあげる」と応え、彼女がかつて愛した小説の世界をVRで再現する夫。この残酷で、あまりに純粋な愛の契約に、一瞬で心を射抜かれました。

舞台は2057年。AIが幸福を制度化し、死すらも管理される日本。腐りかけた現実の病室と、眩いほどに美しい仮初めのVRワールド。その境界線で揺れ動く主人公・金子の視線を通して描かれるのは、技術がどれほど進歩しても埋めることのできない「孤独」と、それでも誰かを想う「祈り」のような感情です。

五感に訴えかける緻密な情景描写が、偽物の世界に「本物以上の切実さ」を与えています。死に向かう二人が最後に何を見つけるのか。愛とは、幸福とは何か。その答えを、祈るような気持ちで追いかけたくなる、世界でいちばん悲しく、美しい物語です。

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