寂しさや悲しさの中にある「優しさ」が心地よい作品

感情を獲得しきっていないからこその素朴さを持つサチの描き方が好きでした。

フランクな場面でも変わらない丁寧な言葉遣い、一つ一つ確かめるようになされる会話。
そういった描写から、彼女が「こういう場合はどう対応するのが適切なのだろう」と頭で考えながらコミュニケーションを取っていることがうかがえます。
ともすると感情が希薄なのかと思ってしまいそうです。
けれど、ある真実を告げるべきか告げないべきかで迷う様子からは、「適切な方を選ぶ」という機械的な迷いだけではない彼女の優しさが伝わってきました。
こちらが正しいと判断を下したならば、迷うことなくその判断にしたがうのが「機械的」な対応ですが、そこに生じる迷いがあるのは、紛れもなく「感情」があるからでしょう。
感情を獲得する過程だからこそ少し淡白にも見えますが、その淡白な中にある感情の芽生えのようなものが、とても優しく繊細に描かれています。

その感情や、感情による行動に正しい解を与えなかったところも好きです。
正しいか正しくないか、適切か適切でないか。
そういったことで、「感情」というものはくくれないのだということが、決して押し付けがましくなく伝わってきたように思いました。

また、読みながら浮かんでくるサチの姿が素敵です。
小さくて礼儀正しい人形が、動いたり、少し困ったり、優しさゆえの後悔で落ち込んだりする姿は可愛らしく、作品に彩も与えていました。

寂しさや悲しさの中にある優しさが心地よい作品です。

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