感情人形とおまもりのぬいぐるみ

聖願心理

第1話 迷い込んだ少女

 とんとん。何かを叩く音がした。

 しばらくして、がちゃがちゃとドアノブを掴み、無理矢理ドアを開けようとする音がして、さっきの音がノックだったと気づいた。


 森の中にあるこの家には人が訪ねてくることが少なく、何度も訪ねてくる人は玄関先のベルを鳴らすので、ノックだと気づくのに遅れた。

 ベルは魔法で家中に届くようになっているので、客が来たときはすぐわかるのだが、流石にドアのノックは主人の部屋までは届かない。


 金糸雀カナリア色の髪を持つ美しいであるサチは、自室で作業をしている主人を呼びにいくために、読んでいた絵本を閉じる。

 感情人形フィーリング・ドールと呼ばれる、魔法で創られた人形であるサチは、感情を持ち、話すことができ、動くとができる特別な人形だった。


 人形の小さな足で、なるべく速く歩き、主人の部屋のドアを叩く。


「テイルお母さま。誰か来たみたいです」


 作業に熱中していると、サチの声も聞こえない。そのため、ドアの中にあるさらに小さなドアから中に入って声をかけるというひと苦労があるのだが、今日はちゃんと聞こえたらしく、返事が聞こえてきた。


「お客さん? ベルが鳴らなかったから気づかなかったな」


 栗色の髪を後ろでひとつにまとめている少女が、少し眠そうな顔をして部屋から出てきた。

 彼女がサチを創った魔女であり、サチの主人であり、母である。


「ベルではなくノックだったので、気づかなくて当然です」

「わかりやすい位置にベルはあると思うんだけどなぁ」


 訪ねてくる客が少ないとは言え、ベルは目につく場所に設置してあるし、数少ない客からも苦情をもらったことはなかった。


 テイルはサチを抱き上げ、自分の左腕に座らせる。

 そうして玄関に向かい、ドアを開ける。


「あー。これはベルが届かないわけだ」


 ドアの前には、クマのぬいぐるみを抱えた五歳くらいの女の子がいた。


「ねえ、ママはどこ?」


 今にも泣き出しそうな顔をしていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る