落ちているパズルのピースを見つけたことから始まる不思議な出来事を描いた作品です。
2000字弱という短い文章の中で、ささやかな疑問が徐々に心の中で大きくなっていく様が、過不足なく描かれていました。
そして、いつしかその疑問は語り手の生きる世界そのものへと向けられていきます。
いつもとなんら変わらない景色が描かれるラストの一文には、世界への疑いが凝縮されているように感じました。
少し前まで明らかにおかしかったはずなのに、今は何の変哲もない景色。
そこには、全ての正常に見える物事が虚構であるのではないかという疑念が含まれているよう。
平和で美しい日常の描写から、尾を引く疑念と不気味さを感じさせる秀逸なラストでした。
ラスト以外も、全体に空白の使い方がお上手だなと感じました。
心情描写を少なめに、シンプルな文を積み重ねるような少しハードボイルドな文体で、作品にとても合っていたように思います。
状況や行動を淡々と描きながら、行間に深まる疑念、不穏な気配を滲ませることに成功しているように感じました。
主人公はある日、部屋の中で謎のパズルのピースのようなものを見つけてしまう……という出来事のあとから、なぜかそのようなものが頻繁に目に入るようになってしまった、というお話です。
保護色のものでも、一度見つけっれたら見えるようになるのと同じ現象なのかな、と想像しつつ。
SF(少し不思議)感のあるお話なのですが、なんとも奇妙な出来事の連続に、「このピースはいったい何なのだ?」という疑問が好奇心を刺激します。
日常が謎のピースの出現というだけで、一気に非日常の世界に変わるなんともいえない感覚がこの作品にはあって、短いながらも記憶に残る作品かと思います。