「それ」は「彼」でも「その人物」でもなく、すでに「それ」と化していた。

冒頭から「それ」としか呼ばれぬもの。
無情な生い立ちのなかに育ち、人間性を培われない環境で生き抜いた「それ」は、ふとした契機で、たやすく一線を越えた。
その業に憑かれるように、否、その業をはねのけるに足るものなどは、そもそも「それ」の中に育まれることはなかったのか。
業のままに突き進んだ「それ」はとうとう、人が人である最後の境界をすらも超えて……。

タイトルに偽りなし。これは「ある食人鬼の物語」。