神から与えられたギフトとそ譚の狭間で自己表現を模索する思春期の成長譚

「歌」に興味がない人はいないと思います。
だからこそ、この作品から歌を通じて主人公の優くんがどこに羽ばたいていくのか追ってほしい。
思春期特有の難しい悩み(彼に対しての場合はそれ+アルファがありますが、そこは本編で是非チェックしてください)、青春、彼に対しての「優しい距離感」をもつクラスメイト、そして恋愛。すべてが網羅されています。
ちょっと人と違う部分があるとそれだけで「異質」と思われ、腫物に触るように言葉を選び距離を遠ざける。それが彼をさらに奥へと押しとどめてしまう檻になってしまうが、優くんはギフトで歌への楽しみを見つけた。
お父様はオペラ歌手、お母様は声楽家への夢をあきらめて現実の仕事へと進む。
両親が望んでも努力では決して手に入らないものを持ち生まれた優くん。事故で悲しい体になってしまったが、彼には類まれな声がある。
この「カストラート」という部分、説明にもありますが、非常に難しい部分に着目されており、設定も細かく練られている。そして何よりも丁寧な地の文。
主人公は難しい思春期のまっただ中なので、男女の関係性が丁度発展する微妙な時期。その中で優くんは・・・なので恋愛とは何か?というところが難しい。
彼が「恋愛ソング」を研究した時にどういう結論を導き出すのか非常に楽しみでたまらない。歌に向き合った優くんのシーンや海外からの反応を見た時に彼が自分の居場所をようやく探し出せた気がして自分のことのように喜びを感じられた。

合唱をかじった人間であれば誰しも魂を震わせる声に憧れを抱くと思う。私は魂を震わせる歌が好きだ。作者の作り上げる情景を紐解き音から風景やにおい、その感覚を味わえる歌が好きだ。そのアーティストの心を優くんが表現してくれる。最高です。(現実にいたら彼に歌ってほしい人は山ほどいるはず)
五感を、魂を揺さぶる優くんが紡ぎだす「歌」 そして恋愛要素もこれからMIXしてくると思うので、今後も非常に楽しみな作品です。

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